必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「各領主の武衛邸にも直接品を納めるくらいには豪商だけど、その分守銭奴で必要な出費すら惜しむから、仕入れている八百屋や肉屋の者達に荷運びをさせているんだ。蒼のいる八百屋もそこに野菜を納めているからね、よく武衛邸への納品にご主人が駆り出されているよ。荷運び分の賃金は払われないらしいけど」
「商売相手でもそんなだぜ? 使用人なんてあいつは人とも思ってねぇよ。些細な失敗ですぐに怒鳴るし、すぐに棒で打つ。それも滅多打ちだ。男も女も子供も関係ない。そんな風に打たれたら身体がまともに動くわけもないってのに、荷物を落としたり機敏に動けなかったらまた打つ。それの繰り返しだ。泣こうが喚こうが関係ない。あそこの使用人は奴隷だ、すぐに死んじまうって、けっこう有名だな」
 優の言葉に続けて紫呉が吐き捨てるように言う。血管が切れそうなほどに怒り狂っている紫呉であるが、どれほど怒ろうとその主人をどうこうする権利も、使用人たちを救う術もない。それは紫呉に限らずだ。だからこそ、未だ地獄のような怒声と悲鳴が響き渡っている。
「……結婚されているなら、奥方や子供は何も言わないのですか? そのような環境、たとえ己に火の粉が降りかからなかったとしても恐ろしいものでしかないでしょう」
 あまりに悲惨な内容に眉根を寄せながら雪也は言うが、小さく息をついた優は静かに首を横に振った。
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