必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「そういえば、弥生兄さまのお屋敷を右に少し行った場所にあるお屋敷は、どなた様でしょうか? 向かいに小道がある、武家のお屋敷ではないように見えるのですが、随分立派で広い、お屋敷なのですが……」
 弥生のいる春風家の屋敷や、以前雪也が囲われていた松中の屋敷とは随分雰囲気が違うが、それでも一般市民が構えるなど夢のまた夢であろうと思われる大きな屋敷。人の出入りも多いように見受けられるその屋敷に心当たりがあるのか、しばし悩んでいた弥生は「あぁ、あの屋敷か」と納得したように頷いた。
「雪也の言うように、あれは我々のような者の屋敷ではない。あれは商家だ。随分とやり手だとかで、下手な武官よりも随分と稼いでいると聞く。実際はどうかわからんが、それくらいでなくばあのように大きな屋敷を構えることなどできないだろう。それで、その屋敷がどうかしたのか? 雪也があちら側に行くなど、珍しいではないか」
 基本的に雪也は知らぬ場所を進んで行きたがるような性格をしていない。それも関りのない屋敷に興味を示すなど、珍しいどころの話ではなかった。それは自分でもわかっているのか、雪也がほんの少し苦笑する。
「薬をお届けする為に通っただけなのですが、その……、随分と恐ろしい声が連日聞こえてきて、同時に人の悲鳴のようなものも聞こえるので、何事かと。一度探ってみたのですが、門番は知らぬ存ぜぬ、下手をすれば怒声や悲鳴など聞いてすらいないと貫く者ばかりで、あの悲鳴が何なのか、未だにわかりません。わからないならわからないで良いではないかと己でも思うのですが、どうにも気になってしまって……」
 すみません、と小さく謝る雪也に、弥生は肩を叩くことで顔を上げるよう促す。揺れる瞳に視線を合わせた。
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