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側付きに案内され、弥生が通されたのは大奥の中にある一室であった。本来将軍以外は男子禁制の大奥に足を踏み入れるなどそうそう無いが、大奥に足を踏み入れた時点で弥生は将軍がなぜ己を呼んだのか、その理由を悟る。そしてその予測通り、部屋の上座には将軍茂秋と、御上として嫁いできた静宮が座っていた。
「お召しにより参上いたしました」
膝をつき深く頭を垂れる弥生に、茂秋は笑みを零しながら顔を上げるよう促す。ゆっくりと顔を上げれば優しく微笑む茂秋と静宮がいて、その姿に弥生も思わず笑みがこぼれた。
「姫宮様から聞いたが、そなたと姫宮様に面識があったとか。姫宮様が懐かしんでおられたゆえ、そなたを呼んだのだ」
本来であれば新妻が懐かしむ男の知り合いなど煙たく思うであろうに、茂秋は心の底から姫宮様の知り合いがいたことに喜んでいるようだ。その優しさがきっと知らぬ土地で不安であろう静宮を包み込んでくれるだろうと思えば、弥生の笑みもますます深くなる。
「お懐かしゅうございます、姫宮様。覚えておいでだったとは、この春風、望外の喜びにございます」
再び頭を垂れれば、コロコロと鈴を転がすような笑い声が聞こえた。見れば静宮は扇で口元を隠しながら、それでも楽しそうに笑っている。
「春風さんは相変わらずであらしゃいますなぁ。今日はお一人か? 秋森さんや夏川さんはお元気か?」
幼少期に交流のあった静宮は弥生の側にいた優や紫呉のことも知っている。本来姫宮様である静宮が春風家の使用人や護衛である優や紫呉のことを気に掛けるなど前代未聞であるが、子供に身分など関係なく、静宮や彼女の兄である今上帝とも親しくしていた。
「お召しにより参上いたしました」
膝をつき深く頭を垂れる弥生に、茂秋は笑みを零しながら顔を上げるよう促す。ゆっくりと顔を上げれば優しく微笑む茂秋と静宮がいて、その姿に弥生も思わず笑みがこぼれた。
「姫宮様から聞いたが、そなたと姫宮様に面識があったとか。姫宮様が懐かしんでおられたゆえ、そなたを呼んだのだ」
本来であれば新妻が懐かしむ男の知り合いなど煙たく思うであろうに、茂秋は心の底から姫宮様の知り合いがいたことに喜んでいるようだ。その優しさがきっと知らぬ土地で不安であろう静宮を包み込んでくれるだろうと思えば、弥生の笑みもますます深くなる。
「お懐かしゅうございます、姫宮様。覚えておいでだったとは、この春風、望外の喜びにございます」
再び頭を垂れれば、コロコロと鈴を転がすような笑い声が聞こえた。見れば静宮は扇で口元を隠しながら、それでも楽しそうに笑っている。
「春風さんは相変わらずであらしゃいますなぁ。今日はお一人か? 秋森さんや夏川さんはお元気か?」
幼少期に交流のあった静宮は弥生の側にいた優や紫呉のことも知っている。本来姫宮様である静宮が春風家の使用人や護衛である優や紫呉のことを気に掛けるなど前代未聞であるが、子供に身分など関係なく、静宮や彼女の兄である今上帝とも親しくしていた。
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