必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「胃薬よりお前の恋人どうにかしろやッ」
「やだなぁ紫呉。そんな堂々と恋人だなんて言われたら照れてしまうじゃないか。ねぇ、弥生?」
「お前が一番堂々としているがな。見てみろ、雪也がどうしたら良いかわからず迷子の子猫のように縮こまっておるではないか。可哀そうに」
 すべての発端は自分であるというのに、それらすべてを無かったことにしながら雪也の頭を撫でる弥生に、雪也は乾いた笑みを零すしかない。
「……とりあえず、もっとお水を用意しましょうか」
 紫呉はおそらくこの真っ赤な椀の中身を残さず食べるだろう。紫呉の口の中が大変なことになるだろうことを予想して、雪也は立ち上がる。
 ギャァギャァと騒がしくもある彼らにクスリと笑みを零すが、同時に少しだけ寂しさを覚える。
 屋敷を出ると言ったのは自分で、それについて雪也は後悔していない。弥生の善意で養われていた身には、あれ以上屋敷にいることは許されなかった。たとえあの時に戻りやり直せたとしても、雪也は今と同じ道を選ぶだろう。だがどうしても、彼らが屋敷に帰り庵でたった一人になると寂しさに心が沈み、大きなため息が無意識のうちに零れ落ちてしまう。
 かつてに比べれば、十分に恵まれた環境だ。誰に暴力を振るわれることもなく、誰に色を強要されることもなく、好きなように生き、衣食住にも困らない。だが、寂しいと思う。
(随分と、我儘になってしまった)
 そんな風に自嘲して、雪也は努めて笑みを浮かべながら紫呉に水を持って行った。
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