必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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「あまり……このようなことを言うべきではないと分かっているのですが」
 椀を持った手を下げて、俯いたまま雪也は言葉を探すようにとつとつと紡ぐ。
「どうか……ご無理なさらないでください。他にも近臣の方はいらっしゃるのですから、弥生兄さまだけが頑張る必要はないはずです。だから……適度に休憩をして、お身体を労わってほしいのです」
 天下の将軍に対して、例え本人が目の前におらずとも不敬になる言葉だった。それに将軍のそば近くに仕え、手足となるは武人の誉れ。むしろ年若い弥生が右腕左腕とは言えずとも、それなりに将軍からの信頼を得、重要な役割を頂いていることに喜び、言祝ぐべきだろう。だがしかし、武人として生きることのない雪也はそのような事よりも弥生が疲れてしまわないかということばかりが気になってしまう。誉よりも身体を労わってほしいと願ってしまう。
 武人たる弥生には余計なお世話どころか無礼な物言いだったかもしれないと分かっているがゆえに俯いたまま顔を上げることのできない雪也の肩を、弥生はポンと優しく叩いた。恐る恐る雪也が顔を上げれば、そこには優しく微笑む弥生の姿がある。
「そう心配することはない。私は存外したたかだからな。適当に他者へ仕事を振って休憩は存分に取っている。ただ遠い昔に華都で過ごしたことがあるから、宮様とも面識があるということで駆り出されているに過ぎない。だから雪也がそう俯く必要など無いのだ。だが、その心は嬉しく思う。ありがとう」
 ゆっくりと雪也の髪を撫でる弥生の姿に呆然としていれば、弥生の隣に座っていた優がクスリと笑みを零す。雪也の隣にいる紫呉などは顔を背けて肩を震わせているが、おそらく笑いをこらえているのだろう。
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