必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 弥生の仕える城の主、この国の実質的な支配者である将軍の正室は摂家の姫君を娶ることが通例だ。歴代将軍の正室の中にはその生まれこそ摂家ではなく分家の娘であったりもするが、必ず幼少期に摂家に養子として籍を移しているため書類上は例外などない。それは神の庭と呼ばれたかつての都、華都におわす帝との関係を結ぶためのものであるのだが、将軍が神の愛娘たる姫宮を娶るなど分不相応。どれほど将軍が実質的にこの国の政を支配していようと、身分は古と変わらず帝や摂家の下、国の第三位でしかない。それでも帝のおわす華都を敬うという意思表示と、自らの政は常に華都の後ろ盾を得ていると国民に広く知らしめるため、帝の忠実なる側近である摂家の姫と婚姻を結ぶのだ。摂家ですら嫡子以外が姫宮を妻として娶るなどあり得ないというのに、将軍に宮様が嫁いでくるなど、前代未聞だ。だが不思議そうに首を傾げている雪也に、弥生は肯定するようにひとつ頷いた。
「今回は宮様だ。衛府と華都との絆を深めるため、今上帝の末妹にあたる宮様がお輿入れになる。当然、お迎えする我々の方にも失敗は許されんからな。念には念を入れてお迎えせねばならん。なにせ上様は将軍であらせられるが、お輿入れになる方は直系の姫宮様――神の愛娘といわれる方だ。当然、上様よりもご身分は上になる。扱いも、今までのご正室と同じというわけにはいくまい」
 何やら難しく複雑な話に雪也は思わず瞼を伏せる。雪也には将軍の近臣の苦労や心労はわからず想像することしかできないが、しばらくは彼が苦労することだけは理解できる。
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