必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 春風の屋敷で出されるよりもうんと質素であるが、それでも雪也ができるだけの心を込めた鍋に、夕方近くに顔を出した弥生たちは優しく目を細めて美味い美味いと箸を動かした。庵はさほど広くなく、鍋を囲む三人の距離は自然と近くなる。だが、その近さが逆に心地よいと、雪也は上手くできた鍋の白菜を口に運びながらも笑みを零した。
「雪也も随分と料理の腕を上げたものだ。最初は豆腐も握りつぶしたのかと思うほどにボロボロであったというのに。年月は人を成長させるものだな」
「弥生、言ってることが年寄りくさいよ」
 椀を手にしみじみ言う弥生に、同じく椀を持ちながら優しく微笑んでいた優がグサグサと刺すように突っ込みを入れるが、そんなもので落ち込んだり気分を害したりするような弥生ではない。
「何を言う。屋敷にいた時より明らかに成長しているではないか。見てみろ、この握り飯を。初めて米を炊いた時などは粥を通り越して重湯なのではと思うくらいに水加減を間違っておったというに、今ではこんなに見事に炊けるのだぞ。それも形まで丸ではなく見事な三角だ」
 ちゃんと見ろと握り飯を優の前に差し出した弥生に、優はニコリと微笑むと弥生の手首をガッチリと掴んで自らの口元に弥生の手ごと寄せると、握り飯にパクリとかぶりついた。
「うん、確かにすごく美味しい」
 そのまま二度、三度と握り飯にかぶりつく優に、いつか弥生の手ごと食べてしまうのではないかと考えてしまった雪也は苦笑しながら視線を逸らせた。
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