必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

文字の大きさ
上 下
24 / 714

23

しおりを挟む
「ズルいですね、弥生兄さまは」
 少し鼻声になり顔を見せまいと俯ける雪也に、弥生は不敵な笑みを浮かべた。
「何を言うか。こんなに弟思いだというのに」
「あ、それ自分で言っちゃうんだ」
 堂々と胸を張って言う弥生に、横にいた優がツッコミを入れる。今この瞬間まで、当たり前にあった日常の姿。容赦がなくて、温かくて、身分の差は確かにあるはずなのに、そこにはまったく隔たりがない、優しい場所。雪也にとって帰るべきであった場所。
(あぁ、考えては駄目だ)
 考えれば考えるほどすべてが懐かしくて、離れがたい。寂しいと泣く自分が出てきてしまう。
(あぁ、駄目だ)
 このままでは決意が揺らいでしまう。だから――。
「弥生兄さま、優さま、紫呉さま」
 名を呼べば、じゃれあいを止めて皆が雪也に視線を向ける。その視線すべてに笑みを浮かべて、雪也は深く頭を垂れた。
「ありがとうございました」
 恩は忘れない。必ずいつか、お返ししよう。胸の内で呟いた雪也に手を伸ばし、弥生は彼の顔を上げさせた。そしてその身体を抱きしめ、ポン、ポンと背を優しく撫でる。
「そんな顔をするな。私は遊びに来ないなどと言ってはいない。三人で遊びに来るし、お前もいつだって屋敷に来て良いんだ。今生の別れなどではないのだから、笑っていろ」
 促され、雪也は溢れるものを抑え込みながらも笑みを浮かべる。それに弥生は優しく頷いて、そして雪也から腕が離れた。
「では、またな」
 そう言って優と紫呉を伴い踵を返す。その後ろ姿を、雪也は見えなくなるまで見つめ続けた。
 自分で選んだ道だ。後悔などしない。そう自らに言い聞かせて瞼を閉じる。

 さぁ、頑張らなければ。自らを奮い立たせ庵に足を向けた雪也は知らない。
 この三日後に弥生たちが遊びに来て、それ以降頻繁に、本当に頻繁に顔を見せにくることを。あの感動の別れは何だったのかと、ほんのちょっと疑問に思ってしまうことを。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。 魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。 そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。 不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。 旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。 第3話から急展開していきます。

その瞳の先

sherry
BL
「お前だから守ってきたけど、もういらないね」 転校生が来てからすべてが変わる 影日向で支えてきた親衛隊長の物語 初投稿です。 お手柔らかに(笑)

どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。

彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。 だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。 どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。

今世では誰かに手を取って貰いたい

朝山みどり
BL
ノエル・レイフォードは魔力がないと言うことで、家族や使用人から蔑まれて暮らしていた。 ある日、妹のプリシラに突き飛ばされて、頭を打ち前世のことを思い出し、魔法を使えるようになった。 ただ、戦争の英雄だった前世とは持っている魔法が違っていた。 そんなある日、喧嘩した国同士で、結婚式をあげるように帝国の王妃が命令をだした。 選ばれたノエルは敵国へ旅立った。そこで待っていた男とその日のうちに婚姻した。思いがけず男は優しかった。 だが、男は翌朝、隣国との国境紛争を解決しようと家を出た。 男がいなくなった途端、ノエルは冷遇された。覚悟していたノエルは耐えられたが、とんでもないことを知らされて逃げ出した。

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。

水鳴諒
BL
 目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

案外、悪役ポジも悪くない…かもです?

彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、 たけど…思いのほか全然上手くいきません! ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません? 案外、悪役ポジも悪くない…かもです? ※ゆるゆる更新 ※素人なので文章おかしいです!

処理中です...