必ず会いに行くから、どうか待っていて

十時(如月皐)

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 どれほど美しくともゆきやは男だ。男の身で春をひさぐ男娼でも年期は遅くて二十。歳をとればとるほど身体は柔らかさを失い、無骨さが出てきてしまう。ゆきやを手放すのは惜しいが、残り少ない数年に執着するよりは春風家に恩を売っておく方が得策にも思える。
 強欲な松中は頭の中でそう結論を出し、にやりと笑った。
「ゆきやの心配は尽きませんが、春風殿がそうも申されるのであれば、お譲りしようかのぉ」
 まるで物のように扱われても、ゆきやはピクリとも表情を動かさない。ただそこに座り、何かを見ているようで何も見ていない瞳がゆっくりと瞬かれるだけだ。
「ならば、この者は私が引き取ろう」
 弥生はそう言って、もう構わないだろうと立ち上がる。そしてゆきやに手を差し出した。
「来なさい」
 その手をボンヤリと眺めていたゆきやは、しかし手を取ることはせず一人で立ち上がった。ほんの微かな抵抗に、彼は弥生もまた己にとって敵であると認識していることを悟る。それもそうだろうと特に気にすることなく、弥生は父と共に部屋を出た。すぐに女たちの嬌声があがり、意味ありげな衣擦れの音が響く。それらを振り切るように、弥生はゆきやを抱き上げて己の馬に乗せると、自らも跨ってゆきやを後ろから支えるようにしながら馬を走らせた。
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