3 / 647
2
しおりを挟む
「それに、そろそろ支度しないといけないでしょ? 今日はお父上と宴に招かれてたはずだけど」
身分としては春風家の方が格上ではあるが、父が行くというのに息子である己が行かないという選択ができるわけなどない。わざわざ現実に引き戻してくる優に深くため息をついて、やれやれと弥生は重怠くさえ感じる身体をノロノロと立たせた。いかにも気乗りしないという様子の弥生に、優もクスリと苦笑する。
「まったく、せっかく美しい庭を見て現実逃避していたというのに、わざわざ引き戻しおって」
「眠らなくても明日が来るように、現実逃避したって時は止まらないよ」
まったくの正論を返してくる優に再びため息をついて、弥生は踵を返した。面倒だが、行かねばならないのならそろそろ身支度をしなければならない。
「まぁ、弥生の気持ちもわからなくはないけどね。あの大臣は好色だから」
男は皆美しく若い女が好きだなどと言うが、彼の場合は度が過ぎていると優も苦笑する。まるで城の主である将軍がもつ大奥かと錯覚してしまうほどに、彼には側室も多く、正室や側室の部屋子はもちろん、下働きの者でさえ女人と見れば見境なく手を出しているという乱れぶりなのだ。仕事や武勲で名を轟かせるならば武官の誉れであろうが、かの大臣が有名なのはその好色ぶりだというのだから飽きれてしまう。それでも家柄が良いから大臣の地位にあり、庶民には夢見ることすら叶わない大金を俸禄として貰っているというのだから世も末だろう。最近では見境も無くなったのか、弥生のことをジットリと嘗め回すように見てきて鳥肌が立つが、宴も仕事の内と考えるよりほかない。
早く失脚してくれないだろうか、などと少々不穏なことを胸の内で何度も呟きながら、優に促されて弥生は父と共に今日の宴が行われる松中邸へと馬を走らせた。
身分としては春風家の方が格上ではあるが、父が行くというのに息子である己が行かないという選択ができるわけなどない。わざわざ現実に引き戻してくる優に深くため息をついて、やれやれと弥生は重怠くさえ感じる身体をノロノロと立たせた。いかにも気乗りしないという様子の弥生に、優もクスリと苦笑する。
「まったく、せっかく美しい庭を見て現実逃避していたというのに、わざわざ引き戻しおって」
「眠らなくても明日が来るように、現実逃避したって時は止まらないよ」
まったくの正論を返してくる優に再びため息をついて、弥生は踵を返した。面倒だが、行かねばならないのならそろそろ身支度をしなければならない。
「まぁ、弥生の気持ちもわからなくはないけどね。あの大臣は好色だから」
男は皆美しく若い女が好きだなどと言うが、彼の場合は度が過ぎていると優も苦笑する。まるで城の主である将軍がもつ大奥かと錯覚してしまうほどに、彼には側室も多く、正室や側室の部屋子はもちろん、下働きの者でさえ女人と見れば見境なく手を出しているという乱れぶりなのだ。仕事や武勲で名を轟かせるならば武官の誉れであろうが、かの大臣が有名なのはその好色ぶりだというのだから飽きれてしまう。それでも家柄が良いから大臣の地位にあり、庶民には夢見ることすら叶わない大金を俸禄として貰っているというのだから世も末だろう。最近では見境も無くなったのか、弥生のことをジットリと嘗め回すように見てきて鳥肌が立つが、宴も仕事の内と考えるよりほかない。
早く失脚してくれないだろうか、などと少々不穏なことを胸の内で何度も呟きながら、優に促されて弥生は父と共に今日の宴が行われる松中邸へと馬を走らせた。
2
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
SS大集合!(大?)
十時(如月皐)
BL
リクエストいただいた小話や突発的に書きたくなった小話など、本当にSSとよべるお話の集まりです。書いたら更新、します!
「望んだものはただ、ひとつ」等、既刊の長編のお話に関するSSはこちらではなく、新しいのを作ります。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
底辺冒険者で薬師の僕は一人で生きていきたい
奈々月
BL
冒険者の父と薬師の母を持つレイは、父と一緒にクエストをこなす傍ら母のために薬草集めをしつつ仲良く暮らしていた。しかし、父が怪我がもとで亡くなり母も体調を崩すようになった。良く効く薬草は山の奥にしかないため、母の病気を治したいレイはギルのクエストに同行させてもらいながら薬草採取し、母の病気を治そうと懸命に努力していた。しかし、ギルの取り巻きからはギルに迷惑をかける厄介者扱いされ、ギルに見えないところでひどい仕打ちを受けていた。
母が亡くなり、もっといろいろな病気が治せる薬師になるために、目標に向かって進むが・・・。
一方、ギルバートはレイの父との約束を果たすため邁進し、目標に向かって進んでいたが・・・。
悪役令息の死ぬ前に
やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」
ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。
彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。
さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。
青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。
「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」
男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。
囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる