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今日も元気にいってらっしゃい!
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まだ家人の声どころか道路を通る車の音さえ聞こえない、シンと静まり返った時間に周はムクリと起き上がった。時計を見れば六時五分前とちょうど良い。ふわりと欠伸を一つ零してスリッパをパタ、パタと鳴らしながら周は部屋を出た。
さて、今日は当番だからやらなければいけないことが沢山ある。歯磨きと手洗いを手早く済ませ、洗濯機を回してからエプロンを付けてキッチンに立った。
朝食の献立は昨夜のうちに冷蔵庫と相談済みだ。食パンをトースターに入れて、冷蔵庫から卵をパックごと取り出す。ボウルに次々と割り入れて牛乳を目分量で流し入れた。塩胡椒をふって最後にとろけるチーズも入れてしまおう。この時点でボウルは溢れそうだが、朝とはいえ食べるのは男子大学生。こんなものはすぐに無くなってしまう。
フライパン二つを並べて火を通していれば、カチャっと、とても静かに階段に続く扉が開いた。
「おはよう。そっか、今日の当番は周だったか」
姿を見せた同居人の一人である雪也に周はおはようと返して、冷蔵庫からウインナーを取り出し袋から直接フライパンに入れた。途端、ジュゥーと美味しそうな音が静かな空間に響く。
「何か手伝おうか?」
洗面所から顔を出してそう問いかける雪也にうーんと悩んで、そしてちょっぴりお言葉に甘えることにした。
「ご飯は大丈夫だから、洗濯終わったら干してもらって良い?」
「うん、わかった」
コクンと頷く雪也は消音設定にしたテレビをつける。干す前に今日の天気予報を見るのだろう。ソファーに座る姿は朝だというのに凛としている。
カチャカチャとボウルの中をかき混ぜて程よく熱したフライパンに少し流し入れれば、こちらもジュゥーっと良い音を立てた。その時ふと、そういえば洗濯を干すついでに残りの三人を起こそうと考えていたのだったと思い出す。一人はともかくとして、後の二人は寝起き最悪だから雪也にお願いするのは申し訳ない。どうしようかと考えていればピッコン、ピッコンと独特な電子音を響かせて洗濯機が終了のお知らせを告げた。ソファーから立ち上がった雪也が籠いっぱいの洗濯物を抱えながらチラと周に視線を向ける。
「干したら三人も起こしてくるから、気にしないで」
干すついでに三人を起こそうとしていたことなどお見通しだったのか、何でもないことのように雪也が言う。焦がさないように菜箸を動かしながらも周は焦った。
「いや、大丈夫。ご飯用意したら俺が起こしに行くから」
ヘニョリと眉尻を下げる周に大丈夫だよと言って雪也は階段の方へ向かう。
「ご飯作ってくれてるし、周は今から着替えなきゃだろう? 多分あの二人は起きなきゃ朝ご飯抜きって言えばすぐ起きてくるから」
じゃぁ、ご飯お願いね。と言って雪也はパタンとまた静かに扉を開いて二階に上がって行った。そんな雪也の気遣いにふわりと胸を温かくして、周はフライパンを振るう。なんだか腕も軽くなったかのようだ。
真っ白なプレートを取り出し、フワッフワのスクランブルエッグに良い焼き目のついたウインナー、千切ったレタスを盛り付ける。こんがりと焼きあがった食パンは一枚ずつプレートに乗せて、すべて半分に切っていった。雪也はあまり食べないので朝から食パン一枚を食べきることはできない。こうして最初から切っておけば、朝から沢山食べる湊にでも渡すだろう。
さてテーブルに並べようかと盆にプレートを乗せようとした時、二階からドンッと鈍い音が響く。この音はきっと、起こしに行った雪也に「朝ご飯抜き」と言われてベッドから落ちた湊だろう。毎朝毎朝懲りずによく繰り返すものだ。
そんなことを思っている間に何度も欠伸を零し眠そうにしながら蒼がリビングに降りてきて、その少し後に今にも瞼が閉じそうな由弦と寝癖で髪が爆発している湊が雪也に連れられて降りてきた。配膳を雪也と蒼に任せて、周は着替えるために急いで二階に上がる。手早く着替えて鞄を掴んでリビングに降りれば、皆が朝食を前に座って待っていた。やはり雪也は湊にパンを半分渡している。
周も席について、皆で両手を合わせた。
「今日は皆、朝から?」
サクッとパンにかじりつく蒼に由弦と湊と周がはーいと手を上げ、雪也は違うと首を横に振る。
「じゃぁ後片付けは僕と雪ちゃんでやっておくよ」
ふわりと微笑む蒼にスクランブルエッグをパンに乗せて頬張っていた由弦はお茶で口を潤してから、チラとリビングにかけられている当番のボードを見た。
「今日は夕食の当番かぁ。なら買い物して帰ってくるかな」
「あー、じゃぁ俺が洗濯物取り込んでおこうかな。由弦が買い物行くなら、俺の方が先に帰って来られるだろうし」
ようやく目が覚めてきたらしい湊がそう言ってウインナーにかぶりつく。パン一枚半とスクランブルエッグは既に彼の胃袋の中だ。
口々に予定を言い合っていれば、もう出なければいけない時間になる。パジャマのままだった湊と由弦は慌てて身支度をし、周の待つ玄関に向かった。バタバタと靴を履いて玄関のドアノブに手を掛ける。玄関まで出てきた雪也と蒼を、周と湊と由弦の三人は振り返った。
「「「行ってきます!」」」
さて、今日は当番だからやらなければいけないことが沢山ある。歯磨きと手洗いを手早く済ませ、洗濯機を回してからエプロンを付けてキッチンに立った。
朝食の献立は昨夜のうちに冷蔵庫と相談済みだ。食パンをトースターに入れて、冷蔵庫から卵をパックごと取り出す。ボウルに次々と割り入れて牛乳を目分量で流し入れた。塩胡椒をふって最後にとろけるチーズも入れてしまおう。この時点でボウルは溢れそうだが、朝とはいえ食べるのは男子大学生。こんなものはすぐに無くなってしまう。
フライパン二つを並べて火を通していれば、カチャっと、とても静かに階段に続く扉が開いた。
「おはよう。そっか、今日の当番は周だったか」
姿を見せた同居人の一人である雪也に周はおはようと返して、冷蔵庫からウインナーを取り出し袋から直接フライパンに入れた。途端、ジュゥーと美味しそうな音が静かな空間に響く。
「何か手伝おうか?」
洗面所から顔を出してそう問いかける雪也にうーんと悩んで、そしてちょっぴりお言葉に甘えることにした。
「ご飯は大丈夫だから、洗濯終わったら干してもらって良い?」
「うん、わかった」
コクンと頷く雪也は消音設定にしたテレビをつける。干す前に今日の天気予報を見るのだろう。ソファーに座る姿は朝だというのに凛としている。
カチャカチャとボウルの中をかき混ぜて程よく熱したフライパンに少し流し入れれば、こちらもジュゥーっと良い音を立てた。その時ふと、そういえば洗濯を干すついでに残りの三人を起こそうと考えていたのだったと思い出す。一人はともかくとして、後の二人は寝起き最悪だから雪也にお願いするのは申し訳ない。どうしようかと考えていればピッコン、ピッコンと独特な電子音を響かせて洗濯機が終了のお知らせを告げた。ソファーから立ち上がった雪也が籠いっぱいの洗濯物を抱えながらチラと周に視線を向ける。
「干したら三人も起こしてくるから、気にしないで」
干すついでに三人を起こそうとしていたことなどお見通しだったのか、何でもないことのように雪也が言う。焦がさないように菜箸を動かしながらも周は焦った。
「いや、大丈夫。ご飯用意したら俺が起こしに行くから」
ヘニョリと眉尻を下げる周に大丈夫だよと言って雪也は階段の方へ向かう。
「ご飯作ってくれてるし、周は今から着替えなきゃだろう? 多分あの二人は起きなきゃ朝ご飯抜きって言えばすぐ起きてくるから」
じゃぁ、ご飯お願いね。と言って雪也はパタンとまた静かに扉を開いて二階に上がって行った。そんな雪也の気遣いにふわりと胸を温かくして、周はフライパンを振るう。なんだか腕も軽くなったかのようだ。
真っ白なプレートを取り出し、フワッフワのスクランブルエッグに良い焼き目のついたウインナー、千切ったレタスを盛り付ける。こんがりと焼きあがった食パンは一枚ずつプレートに乗せて、すべて半分に切っていった。雪也はあまり食べないので朝から食パン一枚を食べきることはできない。こうして最初から切っておけば、朝から沢山食べる湊にでも渡すだろう。
さてテーブルに並べようかと盆にプレートを乗せようとした時、二階からドンッと鈍い音が響く。この音はきっと、起こしに行った雪也に「朝ご飯抜き」と言われてベッドから落ちた湊だろう。毎朝毎朝懲りずによく繰り返すものだ。
そんなことを思っている間に何度も欠伸を零し眠そうにしながら蒼がリビングに降りてきて、その少し後に今にも瞼が閉じそうな由弦と寝癖で髪が爆発している湊が雪也に連れられて降りてきた。配膳を雪也と蒼に任せて、周は着替えるために急いで二階に上がる。手早く着替えて鞄を掴んでリビングに降りれば、皆が朝食を前に座って待っていた。やはり雪也は湊にパンを半分渡している。
周も席について、皆で両手を合わせた。
「今日は皆、朝から?」
サクッとパンにかじりつく蒼に由弦と湊と周がはーいと手を上げ、雪也は違うと首を横に振る。
「じゃぁ後片付けは僕と雪ちゃんでやっておくよ」
ふわりと微笑む蒼にスクランブルエッグをパンに乗せて頬張っていた由弦はお茶で口を潤してから、チラとリビングにかけられている当番のボードを見た。
「今日は夕食の当番かぁ。なら買い物して帰ってくるかな」
「あー、じゃぁ俺が洗濯物取り込んでおこうかな。由弦が買い物行くなら、俺の方が先に帰って来られるだろうし」
ようやく目が覚めてきたらしい湊がそう言ってウインナーにかぶりつく。パン一枚半とスクランブルエッグは既に彼の胃袋の中だ。
口々に予定を言い合っていれば、もう出なければいけない時間になる。パジャマのままだった湊と由弦は慌てて身支度をし、周の待つ玄関に向かった。バタバタと靴を履いて玄関のドアノブに手を掛ける。玄関まで出てきた雪也と蒼を、周と湊と由弦の三人は振り返った。
「「「行ってきます!」」」
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