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 ベリエルによって既に用意されていた馬車に乗り込み急いで城へ向かえば、フィアナが命じたのだろう侍従が待ち構えていた。彼は挨拶もそこそこに、ほぼ走るような速さでルイをラージェンの執務室へ案内した。そこにはラージェンは勿論、フィアナの姿もあり、ルイは彼らの前で膝をつく。パタンと扉が閉められ、部屋の中には三人だけとなった。
「急に呼び出してごめんなさい、ロランヴィエル公。でも、ようやくオルシアのシェリダン妃から手紙が届きましたの」
 いつもはおっとりとしているフィアナの口調もどこか速い。彼女の口から出たオルシアの名に、ルイは顔を上げた。まさか――。
「ずっとオルシアに頼んでいましたヒュトゥスレイの薬が作れたそうですわ」
 大国ならではの力で薬の開発を続けているオルシアに託した希望。待ち望んだ吉報にルイは目を見開くが、フィアナもラージェンも、どこか浮かない顔をしていた。
「ルイ、嫌なことを言うようで悪いが、薬は完璧ではない。シェリダン妃からの手紙には人間に効果がある薬が作れただけで、まだ実験も安全と言い切るには足りないとあった。それにオルシアのジルア殿は名医だが、もう随分と歳をとっている。バーチェラに来てもらうことも可能だが、強行軍はできない。どうしても、到着する時点でそれなりの日数がかかるだろう」
 それでも、もう時間が無いとわかっていたからシェリダンは手紙を送ってくれた。それゆえに包み隠すことなく危険性も、できないことも書き記して。
 ジルアに無理を言うことはできない。彼に何かあれば、オルシアは名医を失い、アシェルは希望を失う。
 瞼を閉じ、ルイは小さく息をした。考えたのは、ほんの一瞬。
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