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「もう大丈夫ですよ。すぐに痛みは治まります。大丈夫、ここは安全ですし、あなたも、あなたの大切なものも傷ついたりしません。治まるまで、ずっとこうしていましょう。大丈夫、側にいますから」
 大丈夫、大丈夫と優しい声が繰り返す。何の根拠もないというのに何故だかその言葉は信じられて、ほんの少し頭の痛みが和らいだような気さえした。
 ポン、ポンと優しく背中を撫でられる。どれほどそうしていただろう、完全に消えて無くなりはしないものの頭痛が少し治まってきたアシェルは、ゆっくりと視線を上にあげた。
「……ル、ィ……?」
 浮かんだ名を呼ぶが、それが正しいのかも曖昧だ。しかし呼んだ瞬間に視線の先にいる彼が柔らかく微笑んだから、きっと間違ってはいないのだろう。
「はい、アシェル。離れていてごめんなさい。もう大丈夫ですから」
 それはとても穏やかな声音で、幼子に言い聞かせるような言い方だった。だが今はそれがありがたい。もう、難しいことは何も考えられないのだ。
「朝からあまり食べていないようですが、何か食べますか?」
 薬を飲んでいる以上、身体を守るためにも何か食べた方が良いとルイは言うが、何も食べる気が起きない。
 いらない、と首を横に振って拒絶しようとした時、視界の端に燕尾服の男が持った皿が映った。柔らかで甘そうなそれに視線は縫い留められ、何も食べたくないと思っていたというのに、ゆっくりとアシェルの手はそれを求めるよう伸ばされる。
「プリンなら食べられそうですか? いいですよ。エリク、それをこちらに」
 ルイの言葉に、燕尾服の男が近づいてくる。彼はエリクというのか。
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