268 / 281
268
しおりを挟む
「もう大丈夫ですよ。すぐに痛みは治まります。大丈夫、ここは安全ですし、あなたも、あなたの大切なものも傷ついたりしません。治まるまで、ずっとこうしていましょう。大丈夫、側にいますから」
大丈夫、大丈夫と優しい声が繰り返す。何の根拠もないというのに何故だかその言葉は信じられて、ほんの少し頭の痛みが和らいだような気さえした。
ポン、ポンと優しく背中を撫でられる。どれほどそうしていただろう、完全に消えて無くなりはしないものの頭痛が少し治まってきたアシェルは、ゆっくりと視線を上にあげた。
「……ル、ィ……?」
浮かんだ名を呼ぶが、それが正しいのかも曖昧だ。しかし呼んだ瞬間に視線の先にいる彼が柔らかく微笑んだから、きっと間違ってはいないのだろう。
「はい、アシェル。離れていてごめんなさい。もう大丈夫ですから」
それはとても穏やかな声音で、幼子に言い聞かせるような言い方だった。だが今はそれがありがたい。もう、難しいことは何も考えられないのだ。
「朝からあまり食べていないようですが、何か食べますか?」
薬を飲んでいる以上、身体を守るためにも何か食べた方が良いとルイは言うが、何も食べる気が起きない。
いらない、と首を横に振って拒絶しようとした時、視界の端に燕尾服の男が持った皿が映った。柔らかで甘そうなそれに視線は縫い留められ、何も食べたくないと思っていたというのに、ゆっくりとアシェルの手はそれを求めるよう伸ばされる。
「プリンなら食べられそうですか? いいですよ。エリク、それをこちらに」
ルイの言葉に、燕尾服の男が近づいてくる。彼はエリクというのか。
大丈夫、大丈夫と優しい声が繰り返す。何の根拠もないというのに何故だかその言葉は信じられて、ほんの少し頭の痛みが和らいだような気さえした。
ポン、ポンと優しく背中を撫でられる。どれほどそうしていただろう、完全に消えて無くなりはしないものの頭痛が少し治まってきたアシェルは、ゆっくりと視線を上にあげた。
「……ル、ィ……?」
浮かんだ名を呼ぶが、それが正しいのかも曖昧だ。しかし呼んだ瞬間に視線の先にいる彼が柔らかく微笑んだから、きっと間違ってはいないのだろう。
「はい、アシェル。離れていてごめんなさい。もう大丈夫ですから」
それはとても穏やかな声音で、幼子に言い聞かせるような言い方だった。だが今はそれがありがたい。もう、難しいことは何も考えられないのだ。
「朝からあまり食べていないようですが、何か食べますか?」
薬を飲んでいる以上、身体を守るためにも何か食べた方が良いとルイは言うが、何も食べる気が起きない。
いらない、と首を横に振って拒絶しようとした時、視界の端に燕尾服の男が持った皿が映った。柔らかで甘そうなそれに視線は縫い留められ、何も食べたくないと思っていたというのに、ゆっくりとアシェルの手はそれを求めるよう伸ばされる。
「プリンなら食べられそうですか? いいですよ。エリク、それをこちらに」
ルイの言葉に、燕尾服の男が近づいてくる。彼はエリクというのか。
297
お気に入りに追加
1,073
あなたにおすすめの小説
お前が結婚した日、俺も結婚した。
jun
BL
十年付き合った慎吾に、「子供が出来た」と告げられた俺は、翌日同棲していたマンションを出た。
新しい引っ越し先を見つける為に入った不動産屋は、やたらとフレンドリー。
年下の直人、中学の同級生で妻となった志帆、そして別れた恋人の慎吾と妻の美咲、絡まりまくった糸を解すことは出来るのか。そして本田 蓮こと俺が最後に選んだのは・・・。
*現代日本のようでも架空の世界のお話しです。気になる箇所が多々あると思いますが、さら〜っと読んで頂けると有り難いです。
*初回2話、本編書き終わるまでは1日1話、10時投稿となります。
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした
Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち
その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話
:注意:
作者は素人です
傍観者視点の話
人(?)×人
安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
【BL】水属性しか持たない俺を手放した王国のその後。
梅花
BL
水属性しか持たない俺が砂漠の異世界にトリップしたら、王子に溺愛されたけれどそれは水属性だからですか?のスピンオフ。
読む際はそちらから先にどうぞ!
水の都でテトが居なくなった後の話。
使い勝手の良かった王子という認識しかなかった第4王子のザマァ。
本編が執筆中のため、進み具合を合わせてのゆっくり発行になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる