上 下
262 / 281

262

しおりを挟む
「わかった。私もできるだけ屋敷にいられるようにしよう。幸い、雨季の間は第一連隊の軍務も少なくなる。お前たちも、何があっても対処ができるよう準備しておいてくれ」
 全員下がるように命じ、扉が閉まる音を聞いてルイはアシェルの手を持ち、祈るように額をつけた。
「……あなたにこれ以上を望むのは酷なことだとわかってはいますが、それでも、それでも、もう少しだけ頑張ってください。必ず道は開けますから」
 きっと吉報が届く。それはもうすぐそこだとルイは信じて止まない。だってそうでなければ、報われないではないか。
「やっとあなたが、あなた自身の人生を歩むことができる時が来たのですよ? あなたが望むまま、その信念を貫くことができる日が来たのです」
 ルイの脳裏に焼け付いて離れない記憶がある。ラージェンと、既に城で生活していたフィアナの遊び相手としていつものように呼び出されたあの日のことを。



 王家と血の繋がりがある公爵の息子というだけで、ルイは勝手に王子の遊び相手として選ばれ二日に一回は城へ行かなければならなかった。人の目から逃れ、自室に独りいる時が一番心安らかになれるルイにとってそれは苦痛以外の何ものでもなかったが、父親にすら逆らえない無力な子供に王命を逆らえるはずもない。唯一の救いはラージェンも、途中から加わった未来の王子妃であるフィアナもルイに対して穏やかで、目深に被っているフードに何も言わなかったことであろうか。
 ラージェン達と共に勉強し、あるいはダンスの稽古をして、そして空いた僅かの時間でお茶をしたり庭で遊んだりする。それもいずれ弟が産まれれば不要とばかりに切り捨てられて無くなるのだろうと、荒んだ心は大人のすべてを馬鹿にし、鼻で嗤った。
 そんなことを淡々と繰り返していたあの日、ラージェン達と別れ、帰宅するために城を独りで歩いている時、ルイは微かに言い争うような声を聞いた。すでに文官たちが行き交う区域に入っていた為ありえないことではなかったが、それでも珍しいそれに――聞き覚えのあるその声に、ルイはフードを目深にかぶり、柱や物陰に隠れながら声に近づく。城の端にあるこぢんまりとして人通りのない、忘れ去られたような庭にある人影を見て、驚きのあまり目を見開いた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

お前が結婚した日、俺も結婚した。

jun
BL
十年付き合った慎吾に、「子供が出来た」と告げられた俺は、翌日同棲していたマンションを出た。 新しい引っ越し先を見つける為に入った不動産屋は、やたらとフレンドリー。 年下の直人、中学の同級生で妻となった志帆、そして別れた恋人の慎吾と妻の美咲、絡まりまくった糸を解すことは出来るのか。そして本田 蓮こと俺が最後に選んだのは・・・。 *現代日本のようでも架空の世界のお話しです。気になる箇所が多々あると思いますが、さら〜っと読んで頂けると有り難いです。 *初回2話、本編書き終わるまでは1日1話、10時投稿となります。

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 随時更新です。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした

Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話 :注意: 作者は素人です 傍観者視点の話 人(?)×人 安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

【BL】水属性しか持たない俺を手放した王国のその後。

梅花
BL
水属性しか持たない俺が砂漠の異世界にトリップしたら、王子に溺愛されたけれどそれは水属性だからですか?のスピンオフ。 読む際はそちらから先にどうぞ! 水の都でテトが居なくなった後の話。 使い勝手の良かった王子という認識しかなかった第4王子のザマァ。 本編が執筆中のため、進み具合を合わせてのゆっくり発行になります。

主人公は俺狙い?!

suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。 容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。 だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。 朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。 15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。 学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。 彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。 そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、 面倒事、それもBL(多分)とか無理!! そう考え近づかないようにしていた。 そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。 ハプニングだらけの学園生活! BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息 ※文章うるさいです ※背後注意

処理中です...