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「確かに、髪を結いあげる風習のない我々には理解できないことも多々ありますが、それでも貴族の夫人たちがこぞってやっていることを妻にするな、などとは言えません。我々は貴族です。貴族であるならば、身を飾るのは普通のこと。庶民とは違うのだと明確にし、その力を見せつけてはじめて、領地を円滑に治めることができ、それが国の安泰につながるのだと、公爵様ならご存知のはず。貴族には貴族にふさわしい暮らしと装いが必要なのです」
 庶民とは違う。貴族は特別で尊い存在なのだと疑いもせず言い放つウィリアムに、ルイはとうとう隠すことなくため息をついた。この場にアシェルがいなくて本当に良かった。もしも彼が今の言葉を聞いていたなら、ルイ以上の脱力感に襲われていただろう。あるいは、無力感であるだろうか。
「……あなたは、アシェルが必死になって訴えた言葉の何一つとして理解していないのですね」
 それを勿体ないと思う。ルイも幼少の頃よりアシェルの側にいて、その声を聞くことのできる立場にいられたのなら、もっと得られるモノがあっただろうに。
 ルイが喉から手が出るほどに欲しかったモノを得ていたはずの彼は、目の前でキョトンと不思議そうにしている。それが何よりも虚しい。
「やはり我々とあなた方では考え方が相容れないようです。それが今ハッキリとわかりました」
 どうぞお引き取りを、と告げるルイにウィリアムは焦った様子を見せるが、その姿を可哀想だなどとは思わない。もちろん、妻想いの夫だとも。
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