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「これはッ……、陛下がこのようなことを……?」
「何か問題でも?」
 汗をかいた顔を真っ青にさせながらブツブツと言っているウィリアムに、ルイは無垢を装って小さく首を傾げた。貴族の結婚は準備に時間がかかる為まだ婚姻を結んでいないが、それも時間の問題だ。ならば今からアシェルをロランヴィエルに入れたところで大した違いはない。それはウィリアムにもわかっているはずであるのに、彼は視線を彷徨わせて俯いていた。
 どれくらいそうしていただろう、ルイが優雅に紅茶を飲んでいた時、ウィリアムは何かを諦めたように小さくため息をつき、ルイに向き直る。その真っ直ぐな視線に、ルイもまたカップをソーサーに戻して顔を上げた。
「……本当はアシェルに頼もうかと思っていたのですが、すでにロランヴィエル公爵家の者になっているというのであれば、公爵様にお頼みするしかないでしょう」
 諦めて口にしたと思えば、やはりまだ矜持が引っかかるのかウィリアムは言葉を探すように少し沈黙する。しかしルイが助け舟を出してくれないことを覚り、もう一度小さくため息をついた。
「……父の最期にお越しくださった公爵様はもうご存知だと思いますが、当家は今、さほど金銭に余裕がありません。爵位を継いだ祝いと披露目という名目であれば尚更にノーウォルトの屋敷で行わねばならぬでしょうが、とてもパーティーを開き、客人をもてなすだけの準備はできません」
 舞踏会に参加するだけであれば、己の身を飾り立て、馬車を用意するだけで良い。その程度であればどうにか取り繕うことはできる。だが、いかに領地を持つ侯爵であっても、今のノーウォルトには屋敷全体を磨き上げ、客人をもてなす細々としたものを用意するには金が足りなすぎる。
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