ありあまるほどの、幸せを

十時(如月皐)

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「夫人から私の言葉は聞きませんでしたか?」
 せっかくの休日であるというのに、どうして自分はアシェルの側ではなくこんな所にいなければならないのか、とルイは深い深いため息を飲みこむ。唯一の救いがあるとすれば、アシェルは今薬を飲んで眠っているということか。それでもアシェルの目に触れることを警戒して、彼の部屋からは一番遠い応接間に通したルイは、目の前で紅茶を飲んでいるノーウォルト侯爵ウィリアムに視線を向けた。
「それは……、聞きましたが……。ただそれでも、アシェルに話がありまして」
 ウィリアムの方が随分と年上ではあるが、爵位としてはルイの方がはるかに上だ。アシェルに会いに来たウィリアムはこの国最高位の貴族を前にしてオドオドと視線を彷徨わせ、何度も何度も無意味に紅茶で口を湿らせる。おかげでまだ彼が来てさほど時間も経っていないというのに、ウィリアムの紅茶はこれで三杯目だ。
「あの、アシェルは……」
「医者の診察に車椅子の微調整など色々あってこちらに顔を出す余裕はありませんから、お話なら私がお聞きしましょう」
 アシェルは眠っているが、その間に医者は諸々の診察をしており、技師も車椅子の微調整をしているため、ルイはなんら嘘はついていない。ただ真実をほんの少し隠しただけであるが、駆け引きが苦手であるウィリアムはそのことに気づかずモジモジとカップを弄っていた。それほどにルイの前に立つのが恐ろしいのであれば適当な理由をつけて帰ればよいのにと思うが、妻にも弱いウィリアムはここで帰ることもできずチラチラとルイに視線を向けていた。
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