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 少し用事があると言って書斎に行ったルイを見送り、アシェルは真白な紙を手に取ると小さな紙片になるよう切った。このくらいで良いかと満足げに微笑み、扉の近くに待機しているエリクを呼ぶ。
「お呼びでしょうか」
 足音もさせずに近づいてきたエリクにひとつ頷き、アシェルはフィアナから貰った懐中時計を見せた。
「僕はうっかりすることが多い。けれど、これはとても大切だから、毎朝必ず僕の服につけてほしい。鎖があるから、落としたりすることもないだろう」
 エリクはルイの執事であるから、彼が何かを命じればアシェルの願いは叶わなくなるだろう。だが、きっとルイは妹からの贈り物を取り上げるような非道な事はしない。ならば、アシェルが自分で忘れぬよう策を弄するよりも、エリクに願う方が確実だろう。「かしこまりました」と頷いて下がったエリクを見送り、アシェルは先程切った小さな紙片にペンを滑らせた。そしてインクが乾いたのを確認してから二つに折り、懐中時計の裏側を開いてそこに納めた。
 カチッ、と小さな音を立てて蓋を閉じる。祈るように、懐中時計を額にあてた。
「僕の――」
 小さく呟くアシェルを見上げ、エルピスがミャー、と小さく鳴いた。
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