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「わかっている。だからこそ僕のためではなく、自分が幸せになるために時間を使うべきだ。フィアナが小さな子供ではないように、僕もまた小さな子供じゃない。自分の人生は自分で生きるよ」
 優しく微笑んで髪を撫でるその手は温かい。兄の、いつだって安心できたはずの温もりにフィアナは苦笑した。
「そのお言葉が嘘でなければ、私は何も心配はしないのですけれど」
 やっぱりお兄さまは嘘ばかりだ。そう胸の内で呟くフィアナはアシェルの足から手を離すと気持ちよさそうにクッションの上をゴロゴロと転げまわるエルピスの頭を優しく撫でた。その時、小さなノックの音が響いて、侍女の一人が姿を現す。何事かを耳打ちした彼女に、フィアナは瞳を輝かせ、ふふふ、と微笑んだ。
「ねぇ、お兄さま。少しお出かけしませんか? といっても、城の中ですけれど」
 悪戯っ子のように微笑むフィアナに首を傾げながら、城の中であれば王妃がうろついていても問題は無いかとアシェルは頷く。特に何を言うことも無く頷いてくれた兄にフィアナは満面の笑みを見せて、善は急げとばかりに侍従を呼び、アシェルを車椅子に乗せ、靴を履かせた。
「うふふ、では行きましょう。きっとお兄さまも良い意味でビックリしますわよ」
 まるでスキップでもしそうな勢いのフィアナに、そんなに面白いものが城にあっただろうかと首を傾げながら、アシェルは爆睡しているエルピスを侍女の一人に任せ、侍従に車椅子を押されるがままフィアナについて行った。
 庭に出て、少し離れた建物に入る。そして侍従に抱き上げられ二階に上り、綺麗に整えられた小さな部屋に入った。
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