ありあまるほどの、幸せを

十時(如月皐)

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 ノーウォルト侯爵ハンスの葬儀が滞りなく行われ、ウィリアムとジーノが規定通りに爵位や領地を引き継ぐ式を終えたころには、アシェルやフィアナも落ち着き日常に戻っていた。
 青空の元、アシェルは裏の庭にあるガゼボで椅子に座りながらのんびりと花々が風に揺られている光景を眺めていた。膝の上ではエルピスが心地よさそうにお腹を見せて寝転がっており、サワサワと撫でてくれるアシェルの手にウットリと顔を蕩かせている。
「エル、心地いいけれど少し風が冷たくなってきた。もう中に入ろうか。丁度おやつの時間だから、エルもおやつを貰おう」
 アシェルの手に顔どころか全身が液体のように蕩けていたエルピスが「おやつ」という言葉にピクピクッ! と耳を震わせる。蕩けてフニャフニャになっていた身体が急に起き上がり、早く! 抱っこ! と言わんばかりにアシェルの胸元に前足をつけて顔を擦り付ける。そんな現金な姿にクスリと笑って、アシェルはエルピスを抱き上げた。
「少しだけ待っていてくれ、小さなお姫様」
 ごめんね、と額同士をくっつけて囁くと、エルピスの身体を椅子に降ろす。すかさず近づいてきたエリクの手を借りながら車椅子に乗って、再びエルピスを抱き上げて膝の上に降ろした。
「良い子にしていてくれ」
 コショコショとエルピスを抱きしめながら首や背中を撫でる。それに心地よさそうにしている愛猫を微笑ましく思いながら、アシェルはエリクに車椅子を押されて屋敷の中へ戻った。
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