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「アシェル、父君とお話したいこともあるでしょう。僕は部屋の外で待っています。何かあれば呼んでください。そうすれば、すぐにあなたのお側に行きますから」
 ルイとしてはずっと側にいたいところではあるが、ルイがいてはできない話もあるだろう。間に合いこそしなかったが、後悔のないよう別れをするべきだ。
「ありがとう」
 ルイの考えをアシェルも理解したのだろう。小さく頷いてフィアナと共に父が眠る寝台へと向かった。それを見届けて、ルイは一度部屋を出る。中が見えないよう壁に背を預けて小さく息をついた時、部屋の中を気にしながらセルジュがルイに近づいてきた。
「ロランヴィエル公爵様。こちらを、お渡しいたします」
 よほど周りの目を気にしているのだろう、セルジュが懐から取り出したのは何の変哲もない、ありふれた布に包まれた四角いものだった。
「これは?」
 今この時に、ルイに渡す意味は何かと目をすがめる。そんなルイにセルジュは声を更に落として「アシェル坊ちゃまのものです」と告げた。
「アシェルの?」
 セルジュに合わせてルイも声を小さくして問いかける。小さく頷いたセルジュは痛ましげに布に包まれたそれを見つめた。
「アシェル坊ちゃまがこのお屋敷におられた際、使用しておられたものです。日記というよりは、備忘録と言うべきかもしれませんが」
 まるでお伽噺に出てきそうな、分厚くも掌より少し大きい程度の冊子が包まれているのであろうことが、布越しに伝わる。それはアシェルが焦燥に駆られて買ったものだった。
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