ありあまるほどの、幸せを

十時(如月皐)

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 普段はおかしく見えなければ何でもいいと衣服に頓着しないアシェルであるが、今日は流石にそういう訳にはいかない。ルイが馬車のついでに伝えてくれたのだろう、エリクが用意してくれた黒い衣にアシェルは袖を通した。襟や袖には刺繍が施されているが、黒糸で施されているため目立つことは無い。故人を弔うにふさわしい装いだ。
「失礼いたします」
 わざわざそう言ってエリクがアシェルの白髪を丁寧に梳る。いつもであればルイが嬉々としてアシェルの髪を整えるのだが、生憎と今は昼過ぎで、ルイはとっくに連隊長としての仕事についているだろう。
「アシェル様、耳飾りはおつけになりますか?」
 バーチェラの貴族はいついかなる時でも着飾るのが好きだ。それに命を懸けていると言っても過言ではない者たちもいる。だがアシェルは小さく首を横に振った。
「やめておく。この装いだけで充分だろうから」
 公爵家が用意した衣は生地も刺繍もボタンのひとつにいたるまで一級品だ。礼儀を考えるならば充分すぎるほどだろう。それに、飾り物は災いの種になりかねない。
「かしこまりました」
 エリクも特に問題は無いと判断したのだろう、用意していた小さな小箱を横に避けて、隣のリボンを手に取ると緩く編んだ白髪を結んだ。よくよく見れば、この黒いリボンにも黒糸で刺繍が施されているようだ。
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