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「フィアナのこと、守ってあげてね。アシェル、あなただけが頼りなの。ね? お母さまの最後のお願い、忘れないでね」
小さな小さな、まだ誰かの庇護がなければ生きることのできない幼子のことが気がかりだ。けれど、どれほど気がかりであったとしても、もう時間は多くない。
「最後だなんて、お母さまッ――」
「いつ狂うかわからないのッ!」
聞きたくないと泣きそうになるアシェルに、母は叫ぶように訴えた。
「もう、どうなるかわからないの。もう起き上がることができなくなるかもしれない。いつかあなた達の事も忘れてしまうかもしれない。狂って、何もかもわからなくなるかもしれない。もう、わからないの」
わかることはただ一つ、その時はそう遠くないことだけ。
「お願い、アシェル……。もうあなただけが頼りなの。他の何を忘れてもいいわ。どんな義務も捨てて良い。でもどうか、このお願いだけは忘れないと約束をして」
可愛いアシェル。あなたの心に縋るしかないお母さまを許して。
「アシェル……、忘れないでね……」
頬を涙で濡らしながら懇願する母に、アシェルはもう聞きたくないと言うことはできなかった。頷いたら、母の未来を肯定してしまうことになるかもしれない。僅かの希望もないのだと、己で認めてしまうようで、恐ろしくてならない。けれどアシェルは抗うことなどできなかった。ボロボロと涙を零しながら母の手を撫でる。
「はい、お母さま」
約束は決して、忘れなどしない。だからどうか、泣かないでください。
とうとう降り始めた雨が窓を叩く。その無慈悲な音を聞きながら、アシェルはそう願うことしかできなかった。
小さな小さな、まだ誰かの庇護がなければ生きることのできない幼子のことが気がかりだ。けれど、どれほど気がかりであったとしても、もう時間は多くない。
「最後だなんて、お母さまッ――」
「いつ狂うかわからないのッ!」
聞きたくないと泣きそうになるアシェルに、母は叫ぶように訴えた。
「もう、どうなるかわからないの。もう起き上がることができなくなるかもしれない。いつかあなた達の事も忘れてしまうかもしれない。狂って、何もかもわからなくなるかもしれない。もう、わからないの」
わかることはただ一つ、その時はそう遠くないことだけ。
「お願い、アシェル……。もうあなただけが頼りなの。他の何を忘れてもいいわ。どんな義務も捨てて良い。でもどうか、このお願いだけは忘れないと約束をして」
可愛いアシェル。あなたの心に縋るしかないお母さまを許して。
「アシェル……、忘れないでね……」
頬を涙で濡らしながら懇願する母に、アシェルはもう聞きたくないと言うことはできなかった。頷いたら、母の未来を肯定してしまうことになるかもしれない。僅かの希望もないのだと、己で認めてしまうようで、恐ろしくてならない。けれどアシェルは抗うことなどできなかった。ボロボロと涙を零しながら母の手を撫でる。
「はい、お母さま」
約束は決して、忘れなどしない。だからどうか、泣かないでください。
とうとう降り始めた雨が窓を叩く。その無慈悲な音を聞きながら、アシェルはそう願うことしかできなかった。
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