200 / 351
200
しおりを挟む
「じゃぁフィアナ、お母さまの所に一緒に行こう」
知らせに来た使用人にフィアナを託せば良いのだが、今はそれが怖い。手間ではあるが、アシェルはフィアナと手を繋いで母のいる部屋へ向かった。
「お母さま~!」
母のいる部屋の扉を開いた瞬間に、フィアナがアシェルの手を離して駆けだす。中を見れば母は優しく微笑んでフィアナを抱き留めていた。今日は常より少し気分が良いらしい。
「あのね、お母さま。フィアナね、お兄さまとね――」
大好きな母に会えて嬉しいのだろう、フィアナはニコニコと笑いながら母の隣に腰かけてあれこれと話しかけている。母を前にしたフィアナはいつもより少し幼くなるようで、それを微笑ましく見ながらアシェルは中に入ることなく踵を返した。
今は大丈夫。そう自分に言い聞かせ、しかし何かあればすぐに駆け付けられるように近くの部屋に入り、扉を開いたまま使用人が用意してくれた生地の見本帳を広げた。
(フィアナが言っていた、お母さまのドレスの生地……)
早く見つけて仕立て屋に依頼を出さなければ、本当に舞踏会に間に合わない。フィアナは母に関して何も知らないけれど、それでも彼女なりに様々なことに気を遣い、我慢をしている。本当はもっと母に甘えたいだろうし、我儘も言いたいだろう。だがそれらを胸の内に秘めて微笑み無邪気に振る舞うフィアナに、大好きな人と舞踏会で踊るためのドレスくらいちゃんと用意してあげなければ。
母と同じ、水色の生地に、白のレース、濃い青のリボンのドレス。まったく同じというわけにはいかないかもしれないが、それでも似たものを作ることはできるだろう。
知らせに来た使用人にフィアナを託せば良いのだが、今はそれが怖い。手間ではあるが、アシェルはフィアナと手を繋いで母のいる部屋へ向かった。
「お母さま~!」
母のいる部屋の扉を開いた瞬間に、フィアナがアシェルの手を離して駆けだす。中を見れば母は優しく微笑んでフィアナを抱き留めていた。今日は常より少し気分が良いらしい。
「あのね、お母さま。フィアナね、お兄さまとね――」
大好きな母に会えて嬉しいのだろう、フィアナはニコニコと笑いながら母の隣に腰かけてあれこれと話しかけている。母を前にしたフィアナはいつもより少し幼くなるようで、それを微笑ましく見ながらアシェルは中に入ることなく踵を返した。
今は大丈夫。そう自分に言い聞かせ、しかし何かあればすぐに駆け付けられるように近くの部屋に入り、扉を開いたまま使用人が用意してくれた生地の見本帳を広げた。
(フィアナが言っていた、お母さまのドレスの生地……)
早く見つけて仕立て屋に依頼を出さなければ、本当に舞踏会に間に合わない。フィアナは母に関して何も知らないけれど、それでも彼女なりに様々なことに気を遣い、我慢をしている。本当はもっと母に甘えたいだろうし、我儘も言いたいだろう。だがそれらを胸の内に秘めて微笑み無邪気に振る舞うフィアナに、大好きな人と舞踏会で踊るためのドレスくらいちゃんと用意してあげなければ。
母と同じ、水色の生地に、白のレース、濃い青のリボンのドレス。まったく同じというわけにはいかないかもしれないが、それでも似たものを作ることはできるだろう。
515
お気に入りに追加
1,553
あなたにおすすめの小説
大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。
でも貴方は私を嫌っています。
だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。
貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。
貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした
Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち
その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話
:注意:
作者は素人です
傍観者視点の話
人(?)×人
安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる