ありあまるほどの、幸せを

十時(如月皐)

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「じゃぁフィアナ、お母さまの所に一緒に行こう」
 知らせに来た使用人にフィアナを託せば良いのだが、今はそれが怖い。手間ではあるが、アシェルはフィアナと手を繋いで母のいる部屋へ向かった。
「お母さま~!」
 母のいる部屋の扉を開いた瞬間に、フィアナがアシェルの手を離して駆けだす。中を見れば母は優しく微笑んでフィアナを抱き留めていた。今日は常より少し気分が良いらしい。
「あのね、お母さま。フィアナね、お兄さまとね――」
 大好きな母に会えて嬉しいのだろう、フィアナはニコニコと笑いながら母の隣に腰かけてあれこれと話しかけている。母を前にしたフィアナはいつもより少し幼くなるようで、それを微笑ましく見ながらアシェルは中に入ることなく踵を返した。
 今は大丈夫。そう自分に言い聞かせ、しかし何かあればすぐに駆け付けられるように近くの部屋に入り、扉を開いたまま使用人が用意してくれた生地の見本帳を広げた。
(フィアナが言っていた、お母さまのドレスの生地……)
 早く見つけて仕立て屋に依頼を出さなければ、本当に舞踏会に間に合わない。フィアナは母に関して何も知らないけれど、それでも彼女なりに様々なことに気を遣い、我慢をしている。本当はもっと母に甘えたいだろうし、我儘も言いたいだろう。だがそれらを胸の内に秘めて微笑み無邪気に振る舞うフィアナに、大好きな人と舞踏会で踊るためのドレスくらいちゃんと用意してあげなければ。
 母と同じ、水色の生地に、白のレース、濃い青のリボンのドレス。まったく同じというわけにはいかないかもしれないが、それでも似たものを作ることはできるだろう。
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