ありあまるほどの、幸せを

十時(如月皐)

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「あなたにだって願ったものはあるはず。求めたものはあるはず。それらを諦めてほしくないから、私は陛下に結婚を願い出ました。あなたの隣に立ち、あなたと手を繋ぎ、あなたをこの腕に抱きしめて、誰に憚ることなくあなたにすべてを捧げるために」
 あなたの身に何が起こっているのかを知った時の、あの衝撃と絶望をなんと表せば良いのだろう。違ってほしいと願いアシェルを注意深く見れば見るほど間違いではないのだと突きつけられ、現実を受け入れざるを得なかった残酷さを。
「……何があなたをそこまでさせるんだ。僕があなたにあげられるものなんて何もないのに」
 地位も、領地も、子供も、幸福にするだけの時間も、アシェルには何も無い。すべてを捧げられるだけの価値が、アシェルには無いのだ。だというのにルイは優しく微笑むとアシェルに腕を回してその身体を抱き上げると、自らの膝の上に座らせる。横抱きのようなそれにアシェルが驚き固まっている間に、ルイはその身体を抱きしめて真白な髪に頬を寄せた。
「ご存知ないでしょうね。私をここまでのし上がらせたのはアシェルなのに」
 きっと、あなたは何も知らない。求婚するその時まで、アシェルはルイなんて眼中にもなかっただろうから。
「僕が……?」
「ええ。どれほど願っても、時だけは変えられない。あなたよりも年上になることも、あなたと同年になることもできない。だから公爵になり、連隊長になった。陛下の信頼を得て、誰も文句の言えない貴族になった。そうすれば、たとえ歳の差を埋めることができずとも、あなたに甘えていただけるのではないかと思って」
 頼って良いと、甘えて良いと、肩の力を抜いてくれるのではないか。そんな淡い期待を捨てきれなくて。
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