ありあまるほどの、幸せを

十時(如月皐)

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 サクサクと噛むたびに微かな音を立てるクッキー、甘く溶けるチョコレート、可愛らしい形の砂糖菓子。屋敷の者達が用意した色とりどりの果物。それらをアシェルは次々と手に取っては口に詰め込んだ。ゆっくりと味わう余裕もなく、早く早くと搔き立てられるように口に押し込む。飲み込む動きが間に合わず、リスのように頬を膨らませて、もう充分に口内は甘いものでいっぱいだというのに、まだ足りない、まだ足りないとアシェルは新しい菓子に手を伸ばした。
 詰め込むだけ詰め込んで、喉が異様な動きをすれば僅かな隙間から水を流し込んで無理矢理に飲みこむ。あれだけ食べたいと切望していたそれであるのに、味わう余裕もなければ、その顔が喜びに彩られることもない。アシェルは気づいているのだろうか、ボロボロと流れ落ちる大粒のそれが頬を濡らしていることを。
 ポツリ、ポツリと降り始めた雨が窓を濡らす。その時、止まることの無いアシェルの手が後ろからそっと握られた。
「アシェル、そんなに焦って食べては喉を詰まらせますよ」
 目の前の菓子だけを見て、他の何にも反応を示さなかったアシェルであったが、流石に手を取られては気づかざるを得ない。無言で振り返ったアシェルに微笑んで、ルイは手巾を取り出すと、そっとアシェルの口元を拭いた。
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