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ザクッと焦がした砂糖の表面にスプーンを突き立てて、トロトロと輝くプリンをアシェルはボンヤリとしながら口に含む。今日はルイも仕事で屋敷にはおらず、リゼルも領地に戻ったためアシェルは広すぎる屋敷の庭でのんびりと過ごしていた。ルイがアシェルのために用意させたプリンはとても美味しくて、その甘さに思わずふわりと口元が緩む。顔合わせの茶会では様々なことがあって結局甘味を味わう余裕も無かったが、すべてが終わった今、静かに風を感じながら食べるプリンは格別だった。
ひと口、ひと口とプリンを絶えなく食べていれば、淀んだ膿のようなものが溜まって重くなった身体が少し軽くなったような気持ちになる。相変わらず頭はボンヤリとしているが、それでも甘い物を食べている時は形こそわからぬものの幸福を感じることができ、中毒のように手を止めることができない。
心のままにプリンを頬張っていれば、小さなそれはすぐに無くなってしまった。未練がましくスプーンを滑らせて小さな欠片をも口にはこぶが、それも当然ながらすぐに無くなる。
もっと、もっと食べたくて仕方がないのに、プリンはもう、僅かも残っていない。食べたい食べたいとそればかりが頭の中をグルグルと回って、アシェルは勢いよく顔を上げた。
(そうだ。お金……)
このロランヴィエルに来た時に多少の金は持ってきている。それを持って街に出たら良いではないか。そうだ、そうすればいい。
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心のままにプリンを頬張っていれば、小さなそれはすぐに無くなってしまった。未練がましくスプーンを滑らせて小さな欠片をも口にはこぶが、それも当然ながらすぐに無くなる。
もっと、もっと食べたくて仕方がないのに、プリンはもう、僅かも残っていない。食べたい食べたいとそればかりが頭の中をグルグルと回って、アシェルは勢いよく顔を上げた。
(そうだ。お金……)
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