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 フィアナと変わらないほど幼いこの子に、これほどの恐怖と苦しみを与えるほどのものではない。ただ絵画に描かれる悪魔にほんの少し色が似ていて、それをちょっと口に上らせたら確かにそうだと賛同する者がいて、それが共通の会話になるから、それを口にすれば話題に困ることも無いし、自分が標的になることもないから、ほんのちょっと、これくらいなら許される、だってあの人も言っていたもの、私だけが言ってるんじゃない。そんな、たかがそれだけの理由で幼子を傷つけたという事実を、今も大人たちは気づいてすらいない。
 アシェルは怯えさせないようにと注意しながらフードをずらし、その黒い髪を直接撫でる。柔らかで、綺麗な髪だった。
「あなたはこの国で一番の貴族の令息だ。いつかは、あなたが公爵様になる時がくるよ。その時に、立派な公爵様だと言われるように、あなた以外にロランヴィエル家を継ぐことなど不可能だと言われるくらいに、あなたが公爵様で良かったと言われるように、真っ直ぐに背筋を伸ばして生きてごらん」
 誰からも愛されないと自暴自棄にならないで。辛いかもしれない、苦しいかもしれない。こんなことを言う自分はひどく残酷で、それこそ悪魔のように鬼畜であるのかもしれない。それでも、それでもアシェルは思う。
「そうしたら、この黒い髪を誰もが真似したがるようになる。この赤い瞳を羨ましいと思うようになる。令嬢たちがあなたに釘付けになって、こぞってあなたとダンスを踊りたがるようになる。多くの人があなたに愛を乞うて、あなたの隣に立ち、あなたの腕に抱きしめられたいと思うようになる。きっと、人なんてそんなものだから」
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