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「では、雨季はアシェルだけ別荘に行くのですか?」
 ルイのように王都を離れることが難しい貴族にはよくあることだ。当然のようにメリッサは告げるが、それを笑って否定したのはリゼルとソワイル侯爵だった。隣でソワイル夫人も扇で口元を隠しながらコロコロと笑っている。
「まさか。この執着心の強い息子がアシェルと離れることを良しとするわけもない。アシェルが別荘に行くなら何をしてでもついて行くだろうし、別荘に行けないのであればアシェルもこの屋敷に留まるよう懇願するだろう」
「リゼル閣下の言う通りだ。何よりまだ婚約関係とはいえ、実質新婚状態なのだから、片時も離れたくないでしょう」
 今回の雨季は別荘の出番も無いだろう、いやいや別の意味で出番もあるのでは? などと、リゼルとソワイル侯爵は本人たちも、問いかけたメリッサも余所に盛り上がっている。あの別荘が良い、いやいや新婚ならばあの白い別荘の方が雰囲気がある、と次々に出てくる別荘の名前に、いったいロランヴィエルはいくつ別荘を持っているのか、とアシェルは遠い目をした。
「アシェル、お約束のデザートですよ」
 父とソワイル侯爵の盛り上がりなど心底どうでも良いとばかりに無視をして、ルイは微笑みながらフルーツがふんだんに使われた、宝石箱のようなタルトを差し出した。ボンヤリとしていたところに美味しそうなタルトを出されて、アシェルは何もかもを忘れてふわりと微笑む。
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