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 ルイに車椅子を押されながらアシェルの私室に戻り、エリクが用意してくれた紅茶に口をつける。その時、隣のソファに座るのだろうと思っていたルイがアシェルの前に膝をつき、そっと手を取った。
「より良い物をと吟味していて遅くなってしまったのですが、今日には間に合いましたので、これを」
 そう言って、ルイはスルリとアシェルの薬指に何かを差し込む。ヒンヤリとしたそれに視線を落とせば、キラキラと輝くダイヤモンドが埋め込まれた指輪が光っていた。
「これは……」
「婚約指輪です。色のある宝石と迷いましたが、やはりアシェルにはダイヤが似合いますね」
 余計な装飾はなく、ただ埋め込まれたダイヤモンドと飾り彫りが美しいそれにアシェルは思わず全身を震わせる。これは、素人目にも随分と高価なもののように見えるのだが……。
「す、すまないが、こんなに高価なものを貰ってもお返しなんてできないッ」
 婚約指輪を贈られたら、それに見合う何かを返すのが礼儀だ。何を返すのかは自由であるが、婚約指輪相当の物でなければならない。貴族同士の婚約であれば当たり前のことであったが、アシェルはすっかりそのことを忘れていた。
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