ありあまるほどの、幸せを

十時(如月皐)

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「――ル、アシェル。アシェル、起きて」
 ふわり、ふわりと柔らかに頬を撫でられる感触がして、泥のように沈み込んでいたアシェルの意識が浮上する。ゆっくりと瞼を持ち上げれば、優しく細められた紅い瞳が見えた。
「おはようございます。随分と眉間に皺が寄っていますが、嫌な夢でも見ましたか?」
 あまりに苦しそうだから起こしてしまったと言って、ルイはアシェルの眉間に口づけを落とした。
「んぅッ、何でもないッ」
 急に顔が近くなったかと思えば、予想もしていなかった場所に口づけられて、アシェルは慌てて寝台の上を転がるようにしてルイから離れた。そんなわかりやすい反応に気分を害することもなく、ルイはクスクスと笑いながらサイドテーブルに置かれていたモノクルを手に取り、アシェルの目にかけた。
「そんなに端っこに行っては、流石に落ちてしまいますよ。ほら、こっちに来て」
 柔らかな羽根布団を除けて座ったルイが、ヒョイとアシェルの身体を抱きあげる。胡坐をかいたルイの足の間に座らされ、優しく包み込まれたアシェルは頬を赤らめた。リリリリィ、とベルが鳴らされ、すぐにエリクが入室してくる。こんな姿を見られるのは、とアシェルは身じろぐが、エリクはそんな主人たちの姿などいつもの事だと言わんばかりに表情ひとつ変えず、恭しくルイに薬湯を渡してカーテンを開けてから静かに退室していった。
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