ありあまるほどの、幸せを

十時(如月皐)

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 国王の登場に慌てて立ち上がるジーノを手で制すと、彼はフィアナの側に寄ってその手を取り、そっと口づけを落とした。そのいつも通りの愛妻ぶりを無言で見つめていれば、なぜかアシェルの手もとられ、こちらはルイに口づけられる。
「……なにを」
 先程の興奮のせいか、未だ胸を喘がせているアシェルに微笑んで、ルイはチラとテーブルの上に視線を向けてから膝をついた。
「あまりお食事に手を付けられていないようですが、スープは飲みましたか?」
 王と王妃が揃っている場で私語をするのはいかがなものかとアシェルは眉根を寄せるが、当の王夫婦は楽しそうに話し込んでいるため、あまり問題は無いのだろう。そもそも、仕事に関係ないことであれば王はロランヴィエル公爵のすることに対して口は挟まない。
「……後で飲む」
 本当はもう食事をする気分ではなく、スープですら喉を通りそうにないが、それをわざわざエリクに命じてまでスープを用意させたルイに告げるのは良心が痛む。残せばエリクの口から真実は伝わってしまうだろうが、アシェルの口から言うよりはマシだろう。あるいは、エリクに頼み込めばその事実を隠したままにしてくれるかもしれない。そう思っての嘘を紡げば、ルイは気分を害する様子もなく、むしろニコニコと笑みを浮かべた。
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