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「それはどうも。爵位も領地も持たない男の身には、公爵との婚姻など恐れ多い。それだけで過分な幸運とも言えるでしょう。決して不幸になりたいだなどとは思いませんが、これ以上を望むのは分不相応というもの」
 ロランヴィエル公爵家は王家とも血縁関係のある由緒正しい名門貴族だ。ノーウォルトも侯爵として高位の家ではあるが、ロランヴィエルには足元にも及ばない。
 貴族最高位である公爵で、若く美しい、文武両道の美丈夫。彼の腕に抱かれたいと願う子息令嬢は数えきれないほどなのだから、これは確かに幸運なのだろう。アシェルとしては、全く嬉しくなどないが。
 そんな不満が顔に出ていたのだろう、ルイは苦笑して握っていたアシェルの手を撫でた。
「そんなにご自分を卑下することはないのですよ? まぁ、そうすぐには受け入れられないのも道理というものですね。でも私達にはこれからたっぷり時間があるのですから、そう焦る必要もないでしょう」
 こんなにもアシェルが冷たく不満を全面に出した状態であるのに、ルイはニコニコと嬉しそうに笑うばかりでつかみどころがない。いったいアシェルと結婚することの何がそんなに嬉しいのだろうかと心底不思議に思うが、そんなアシェルにルイは果汁が絞られた水の入ったグラスを握らせた。
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