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 胸から込み上げてくる、この気持ちの悪いものは何だろう。目の前にいるのは愛しい、大切な妹であるはずなのに、その妹に怒鳴り散らしてしまいたくなる。それを必死に抑え込むが、車椅子のひじ掛けを掴む手は赤を通り越して真っ白になっていた。
「お兄さま」
 紅茶で喉を潤して、フィアナは真っ直ぐに兄を見つめる。頑固で融通の利かない兄は、きっと納得できないだろうことは予想していた。だから、優しく微笑む。
「聞き分けの無いことを言わないでくださいな。ロランヴィエル公が望み、陛下をはじめお父さまもお兄さまたちも私も認めました。ならば、もうこれは決定事項だと貴族社会で生きてきたお兄さまにはご理解いただけますわよね? それでも納得できないと言うのであれば、しかたありませんわ」
 カチャリとカップを置き、ゆっくりと立ち上がる。扇を手に持ち、アシェルの瞳を射貫いた。
「アシェル・リィ・ノーウォルト。陛下と王妃たる私の名において、ルイ・フォン・ロランヴィエル公爵に嫁ぐことを命じます」
 ――優しく、逃げられないように、退路を塞いだ。

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