ありあまるほどの、幸せを

十時(如月皐)

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「私はあなたのことなど知りません」
「これから知ってください。そもそも、良く知らぬ相手と結婚するなど貴族ならば珍しくないことです」
「いや、いくら貴族でも釣書くらいは互いに確認するでしょう」
「私は釣書など必要ないほどにあなたのことを知っています」
「それはそれで怖いのですが」
「当たり前のことでは?」
「……私は男だから子供など産めません。公爵としては問題でしょう?」
「いいえ、何もご心配なさることはありません。子供のことなど、どうとでもなります。ロランヴィエル家にそのような事を心配し、結婚を妨害しようとする者は一人もおりません」
「私と結婚したとしても陛下や王妃殿下を動かすことなんてできませんよ?」
「王妃殿下と血のつながりがあるのは知っていますが、だからあなたに求婚したわけではありません。例えあなたが陛下や王妃殿下となんのつながりも無い、貴族ですらなかったとしても私はあなたを求めましょう」
「でも、私は足が動きませんからダンスもできませんし」
「結婚にダンスが必要でしょうか?」
「貴族ならば必要なのでは?」
「では私があなたを抱き上げてダンスを踊りましょう。そうすればずっとあなたを腕の中に抱いていられる」
「不可能では?」
「伊達に軍で鍛えておりません。あなたを抱いてダンスを踊るなど、造作もないことです」
「いや怖いのですが」
「落としたりしませんよ?」
 何を言っても納得せず反論してくるルイにアシェルはゾワリと背筋を震わせる。目の前の彼はそれはもう綺麗に微笑んでいるというのに、恐ろしくてならない。なんだ、この得体の知れないものは。
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