ありあまるほどの、幸せを

十時(如月皐)

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「アシェル・リィ・ノーウォルト殿。どうか私と結婚してください」
 飾った言葉など何一つない求婚は、しかしだからこそ異常な輝きを放つ。世の女性たち、あるいは男性であってもうっとりしてすぐに首を縦に振ってしまうような眩さであるが、生憎とアシェルには効かない。彼には叶えなければならない願いがあるからだ。
「お断りします。そもそも、何か勘違いされているかもしれませんが、私は男ですよ?」
「男性であることが断りの理由であるのでしたら、どうぞ撤回してください。私はあなたが男性であることなど最初から知っています。だからこその、陛下のお許しなのですから」
 断ると言った瞬間に悲しそうな顔はするものの、ルイは引く様子を見せない。アシェルは面倒なことになったと胸の内で小さくため息をついた。
 彼の言う通り、貴族である以上男同士など婚姻を拒否する理由にはならない。このバーチェラでは同性同士の結婚を許可する法律は無いが、貴族であれば家同士の結びつきや跡目争い、相続争いを防ぐために子を望むことのできない同性同士の結婚を求めることもある。無益な争いを防ぐためにも、特例として領地を持つ貴族は王の許可があれば同性同士の結婚が認められるのだ。現に女性同士、男性同士で結婚している貴族も少なくはあるものの両の手では数えきれないくらいには存在する。
 国王たるラージェンが許可すると言っている以上、同性同士であることは断る決定打にはならない。現にルイはずっとアシェルの手をとったまま、〝はい〟と返事をするまで離さないとでもいわんばかりだ。ならば、別の理由を考えなくては。
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