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「お兄さま、驚いておられるのはわかりますけれど、無茶をおっしゃらないでくださいな」
 無茶を言っているのはどちらだとアシェルは勢いよくフィアナを見るが、彼女はそんな視線など痛くもかゆくもないとばかりに微笑み、やれやれと大げさに肩を竦めた。
「お兄さまったら。貴族の、それも侯爵家に生まれた以上、結婚は避けては通れぬと知っておられるでしょう? もちろん、私はお兄さまを大事にしてくださらないような方の元なら、その方が男性であろうと女性であろうと大反対しますわよ? お兄さまのお幸せが一番大切ですもの」
「だったらッ――」
「何が問題ですの? こちらのロランヴィエル公はお兄さまとさほど歳も離れていませんし、品行方正で文武両道。貴族のご令嬢方がこぞってダンスを申し込むほどの貴公子ですのに、性格は真面目で誠実。そんな方が、陛下に願いを叶えていただけるという貴重な機会でお兄さまをお望みですのに」
 例え勇猛果敢な軍人であろうと、国王直々に願いを叶えてくれる機会など人生で一度あるか無いかだ。よほど無茶な要求でない限り叶えてもらえるという絶好の機会に願われるという、世の乙女たちが夢見て止まないお伽噺のような幸運であるというのに、何が不満だというのだろう。
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