ありあまるほどの、幸せを

十時(如月皐)

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「いえ、今すぐにお仕度をしていただき、我々と共にお越しください。陛下も御承知のことでございますし、王妃様からサイラス様にも事情をご説明されましたので、挨拶に関してはお気になさることはございません」
 フィアナを愛するあまり彼女に甘い国王は何となく想像できるが、サイラスにまで手を回しているとはどういうことだろうか。己の妹がすべてを仕切っているようであるが、その考えが全く分からずアシェルの中では〝嫌な予感〟が膨れ上がって爆発してしまいそうだった。何か、恐ろしいものが近づいてくるような……。
「……いったい、王妃様は何を企んでいらっしゃる」
 クッキリと眉間に皺を寄せたアシェルに侍女や侍従は揃って頭を垂れるが、やはり逃がしてはくれない。
「申し訳ございません。王妃様からは〝絶対に詳細を話さないこと〟〝アシェル様のお召し替えを手伝い、必ずお連れすること〟を厳命されております。いかに兄君といえど、臣民として王妃様のご命令には従っていただきたく。ご無礼をお許しください」
 これ以上は何も聞かないとばかりに、アシェルの返事を待つことなく彼らは各々の役割を果たすために動き出す。
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