27 / 362
27
しおりを挟む
「……もう結構です。それより、ずっと兄が待っているのでは? 私も今から身を清めますから、義姉上はどうかご退出を」
湯浴みをすると言えば淑女であることに誇りを持つメリッサは特に反抗することなくすんなりと引いてくれる。これはこの本邸に住むようになってから知ったことだ。今もまだまだ言い足りないという顔をしているが、それでも新しい扇子を口元にあてながらクルリとドレスを翻して部屋を出ていく。パタンと扉が閉まった音に、深々とため息が零れ落ちた。
心配そうに視線を向けてくるじぃに大丈夫だと告げ、すっかり冷めてしまった食事を口に押し込み、カトラリーを置く。じぃが食器類を綺麗に片付け、すぐに湯と清潔な布を用意すると言って退室していった。扉が閉められ、一人になった空間にもう一度深いため息が零れ落ちる。
ゆっくり休むことのできなかった足がジクジクとうずいて痛い。誰も見ていないのだからと足を強く掴むが、痛みは紛れても消えることは無くて小さく舌打ちをした。
家族のことも、仕事のことも、頭の中では様々なことを考え実行しているというのに、現実は思うように動き出すものの、その動きは非常に遅く、永遠とさえも思えてしまう。
腹立たしくて仕方ないが、この国に住まう以上、王命は絶対。逆らうことのできぬそれに、早く約束の日が来ることを待ち望んで、アシェルはもう一度深いため息をついた。
湯浴みをすると言えば淑女であることに誇りを持つメリッサは特に反抗することなくすんなりと引いてくれる。これはこの本邸に住むようになってから知ったことだ。今もまだまだ言い足りないという顔をしているが、それでも新しい扇子を口元にあてながらクルリとドレスを翻して部屋を出ていく。パタンと扉が閉まった音に、深々とため息が零れ落ちた。
心配そうに視線を向けてくるじぃに大丈夫だと告げ、すっかり冷めてしまった食事を口に押し込み、カトラリーを置く。じぃが食器類を綺麗に片付け、すぐに湯と清潔な布を用意すると言って退室していった。扉が閉められ、一人になった空間にもう一度深いため息が零れ落ちる。
ゆっくり休むことのできなかった足がジクジクとうずいて痛い。誰も見ていないのだからと足を強く掴むが、痛みは紛れても消えることは無くて小さく舌打ちをした。
家族のことも、仕事のことも、頭の中では様々なことを考え実行しているというのに、現実は思うように動き出すものの、その動きは非常に遅く、永遠とさえも思えてしまう。
腹立たしくて仕方ないが、この国に住まう以上、王命は絶対。逆らうことのできぬそれに、早く約束の日が来ることを待ち望んで、アシェルはもう一度深いため息をついた。
531
お気に入りに追加
1,596
あなたにおすすめの小説

朝起きたら幼なじみと番になってた。
オクラ粥
BL
寝ぼけてるのかと思った。目が覚めて起き上がると全身が痛い。
隣には昨晩一緒に飲みにいった幼なじみがすやすや寝ていた
思いつきの書き殴り
オメガバースの設定をお借りしてます

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました

息の仕方を教えてよ。
15
BL
コポコポ、コポコポ。
海の中から空を見上げる。
ああ、やっと終わるんだと思っていた。
人間は酸素がないと生きていけないのに、どうしてか僕はこの海の中にいる方が苦しくない。
そうか、もしかしたら僕は人魚だったのかもしれない。
いや、人魚なんて大それたものではなくただの魚?
そんなことを沈みながら考えていた。
そしてそのまま目を閉じる。
次に目が覚めた時、そこはふわふわのベッドの上だった。
話自体は書き終えています。
12日まで一日一話短いですが更新されます。
ぎゅっと詰め込んでしまったので駆け足です。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】

今世では誰かに手を取って貰いたい
朝山みどり
BL
ノエル・レイフォードは魔力がないと言うことで、家族や使用人から蔑まれて暮らしていた。
ある日、妹のプリシラに突き飛ばされて、頭を打ち前世のことを思い出し、魔法を使えるようになった。
ただ、戦争の英雄だった前世とは持っている魔法が違っていた。
そんなある日、喧嘩した国同士で、結婚式をあげるように帝国の王妃が命令をだした。
選ばれたノエルは敵国へ旅立った。そこで待っていた男とその日のうちに婚姻した。思いがけず男は優しかった。
だが、男は翌朝、隣国との国境紛争を解決しようと家を出た。
男がいなくなった途端、ノエルは冷遇された。覚悟していたノエルは耐えられたが、とんでもないことを知らされて逃げ出した。
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド
囚われ王子の幸福な再婚
高菜あやめ
BL
【理知的美形宰相x不遇な異能持ち王子】ヒースダイン国の王子カシュアは、触れた人の痛みを感じられるが、自分の痛みは感じられない不思議な体質のせいで、幼いころから周囲に忌み嫌われてきた。それは側室として嫁いだウェストリン国でも変わらず虐げられる日々。しかしある日クーデターが起こり、結婚相手の国王が排除され、新国王の弟殿下・第二王子バージルと再婚すると状況が一変する……不幸な生い立ちの王子が、再婚によって少しずつ己を取り戻し、幸せになる話です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる