ありあまるほどの、幸せを

十時(如月皐)

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「馬の蹄と車輪に骨を砕かれた相手に対して、医者の話すら聞いていない人間が希望を押し付けるのは残酷では?」
 メリッサの言葉はいつだって前向きだ。すべてを楽天的にとらえ、キラキラと輝きに満ちた未来を夢想する。それが悪いことだとは言わない。言わないが、それは時として残酷なものになるのだ。
 けれど、ここまで言っても彼女は理解できない。しようとしない。
「でも寝台や椅子に座る時に立ったりしてるじゃない。なら、もう骨はくっついてるのでしょう? アシェルは車椅子なら苦手なダンスをしなくていいって思ってるかもしれないけど、そんな逃げは駄目よ? 貴族の男として生まれたなら、ちゃんと女性をエスコートして、美しくダンスを踊らなきゃ。ちゃんと努力すれば普通に歩けるし、練習すればダンスもできるわよ。それで、可愛いお嫁さんをもらわないとね」
 なんて素敵なの! と両手を胸の前で握り、キラキラと瞳を輝かせているメリッサはとても美しい結婚式でも妄想しているのだろう。完璧な貴公子たる義弟に、可愛らしく美しい嫁。多くの貴族たちが祝福する美しい結婚式に、義理の姉として、ノーウォルト侯爵夫人として堂々と参列する己の姿が彼女の脳内ではクルクルと、それこそダンスのように繰り広げられているのだろう。とんだ茶番だ。
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