ありあまるほどの、幸せを

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「ちょっとッ！　帰らないって言ってるじゃないですか！　帰るならサイラス様一人でどうぞ！」
　叫びながらワタワタと車椅子を止めようとするアシェルの手をなんとか車椅子から遠ざけて、サイラスは表で待っていたノーウォルトの立派な四頭立て馬車に近づく。帰らないと言いながらバタバタと暴れるアシェルを無理矢理抱き上げて馬車に乗せると、バタンッと扉を閉めた。
「明日は休みだろ？　ゆっくり休めよ。あと、ノーウォルト侯爵によろしく伝えておいてくれ」
「勝手すぎます！　仕事残ってるって言ってるじゃないですか！」
　急ぎの仕事はないとサイラスが言ったにも関わらず、仕事の事ばかりを言って帰らないと怒るアシェルの様子に彼が帰りたくない理由は仕事以外にあるのだろうが、少なくともサイラスには言えないことなのだろうと察する。それでも、帰らせないわけにもいかない。
「仕事は大丈夫だから、ゆっくり休め。いいな」
　従者が車椅子を馬車に積んだのを見て、一歩後ろに下がる。アシェルはなんとか馬車の外に出ようとするが、車椅子から降りてしまったアシェルが一人で降りることは不可能。彼にとっては無情なことに、サイラスが後ろに下がった瞬間に馬車は走り出した。