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「いいえ、このような身体になってからサイラス様がこの部屋を動きやすいようにしてくださいましたし、部下たちも慮って積極的に動いてくれますから。これでさらに文句を言うほど、私も自分勝手にはなれません」
「ならば、身体に何か不調が出たのか?」
 アシェルの足が動かなくなったのも、モノクルが必要になったのもここ数年のことだ。落ち着いているように見えたが、今になって仕事の継続が困難になるほどの不調が出たのだろうか。この儚げにも見える美しい顔にクッキリと浮かぶ隈は、仕事の疲れではなく、不調ゆえだったのだろうか。
 だが、アシェルは首を横に振って否定する。
「いいえ。急にどうしました? そんなに辞職の理由が気になります?」
 いつもであれば根掘り葉掘り聞こうとしないサイラスであるのに、今回は随分としつこく粘るものだ。アシェルは思わず胡乱げに眉根を寄せる。確かに侯爵家の出であり、王妃の兄ではあるが、ただの官吏一人にそこまでの価値はないだろうに。
 だがアシェルの胸の内などわかっているはずのサイラスは苦笑し、首を横に振った。
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