煩わしきこの日常に悲観

さおしき

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第五章

第二話

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 「だからここの因数分解は3乗の公式を使ってこうなるって」
 「……わからん」
 3乗の公式ってなんだよ!2乗でいっぱいいっぱいなのに3乗って……
 「だからここの係数は3になって因数でくくって……」
 さっぱりわからん。ドイツ語でも聞いてる気分だ。
 「聞いてる?翔」
 「聞いてる聞いてる。にしても難しすぎんだろ……」
 「覚えるだけなんだからこれくらいできないと」
 「それができたら苦労してないんだよ…」
 「つべこべ言わずに手を動かす!」
 雫、厳しい……アンタ、人の皮を被った鬼だね! 
 「この問題終わったら英語に変えよっか」
 エンドレススタディ……
 「ほら、手を動かす!」
 やはり鬼だ。とりあえず終わらせるしかないのか……
 「ここはxについて降べきの順に並べて……」
 xとyとzがなんで一緒にあるんだよ!ややこしすぎるんだよ!なんて言ってられないからな。ここはxでくくって、この公式に当てはめて因数分解して…
 「できた!」
 後は答え合わせだけ。頼むから合っていてくれ……
 「よしっ!」
 正解だ!これで今日は数学、ジ・エンド!
 「なら次は英語ね」
 勉強、ネバーエンド……
 「5分くらい休憩しないか?」
 流石にぶっ通しはキツすぎる。
 「なら5分だけね」
 ああっ女神さまっ!
 「にしても翔、数学出来なさすぎ」
 「馬鹿にしやがって……」
 「それより、ビックリしたよね。南館の怪談が実は鹿島副会長のでっち上げだったなんて」
 「確かにな。聞いた時は流石に驚きを隠せなかったよな」
 そう、南館にまつわる怪談話はどうやら生徒会副会長である鹿島さんによる作り話だった。理由としては、人を近づけたくなかったとか。そう考えると結構溜まってたんだろうな……
 「でも他の七不思議に関しては違うって言ってたし、実際のところはどうなんだろうね」
 「さぁな。本当だろうが嘘だろうが、正直どうでも良いけどな」
 「出来れば嘘であって欲しい……」
 雫はホラーアウトだからな。っても、ありきたりすぎて怖さを微塵も感じないけど。
 てか、雫の部屋で二人きり。良からぬことを期待したけどそんな気配が一切無いのが何故か辛い……まぁ、お付き合いは清く正しく美しくって言うしな。これで良いんだろう。これでいいのか……?コレデイイノダ!
 「5分経ったから、英語やるよ」
 英語……何故日本人は自国の言語も使いこなせないのに他国の言語に手を出すんだ?まったく、ワケガワカラナイヨ。
 「これはなんて意味なんだ?」
 「それは………」
 そうして、俺たちは英語を2時間くらいして、お開きとなった。
 「明日はどう?」
 帰り際、雫がそう聞いてくる。俺の答えはもちろん……
 「全然大丈夫だ」
 それを聞いた雫は
 「なら明日も今日と同じようにやるから」
 笑顔でそう返した。
 「了解。ならまた明日な」
 「うん。また明日」
 勉強は嫌いだが、雫と一緒にいられるならいくらでもやれる。そう感じた今日この頃だった。なんて哲学者みたいなことを考えながら俺は自分の家へと帰っていった。

 「ところで翔、まだあの夢は見るのかい?」
 「どうした急に?」
 「いや、ちょっと気になってね」
 わざわざ夜中に電話かけてきて聞く内容じゃないだろ……
 「あれからだんだん頻度が上がってきてはいるな。それにだんだん内容もはっきりしてきたし」
 「内容はどんな感じなの?」
 「なんか俺がベッドに横たわってて、隣で雫が俺の手を握って泣きながら呼びかけてる、って感じだな」
 「成程ね」
 成程って、何がだよ。
 「てか、なんで今頃そんな事聞くんだよ」
 「別に、理由は無いよ。ただ気になっただけ」
 相変わらず変わった奴。
 「それより、今日のテスト勉強は捗った?」
 「まぁな」
 「最上さんはやっぱり教えるの上手?」
 「だな。的確でわかりやすいから助かってる」
 「今日の最上さんとのテスト勉強は楽しかった?」
 コイツ……
 「なんで知ってるんだよ」
 「いや、この会話の流れじゃ翔が言ったようなものだから」
 ハメられた……
 「お前、将来詐欺とかで逮捕されんなよ」
 「その心配は無いよ」
 何故か即答だった。つくづくわからんやつだ。
 「ならそろそろ僕は寝るよ」
 「俺もそうするか…」
 「なら、また明日ね」
 「じゃあな」
 そう言って、電話は切れた。にしても雨宮彼方という人物はわからなさすぎる。4年も付き合いがあるとは思えん。何ならファーストコンタクトさえも俺は忘れてるからな。近い様な遠い様な。謎多き奴だな。
 なんて考えているうちにもう深夜0時。俺もそろそろ寝るか。

 おきてよはやく

 はやくおきて

 お願いだからおきて
 
 何故夢の中でこれを雫が俺の横で言ってるんだ?内容から察するに俺が寝ていて、しかもただ寝ているのではなく、寝たきりの状態であると。考えれば考えるほど訳がわからん。夢には意味があるとかどうとか聞いたことはあるけど、あんまり信用できるとは思えないからな。
 「翔、聞いてる?」
 雫は少し怒り口調でそう言ってきた。
 「すまん、少し考え事、いや何でもない。それで?」
 「それで?じゃなくて、今日は何をするのかを聞いてたんだけど」
 「悪い悪い」
 「それで、考え事って?」
 「えっ?」
 「だから、考え事って何?」
 誤魔化すのが正解なのか?それとも素直に言うべきか?一応夢ではあるけど、雫は関係してるしな。でも、言って変な心配かけるのも違うしな。どうしたもんか。
 「早く言ってよ。言わないと色々と心配なんだけど」
 そう言われちゃぁ言わざるを得ないだろ。
 「実はな……」
 俺は雫に夢についてある程度の事を説明した。
 「……要約すると、翔が寝ていて横に私がいて、泣きながら起きてって囁いていると」
 「だな。高校入ってから急に見るようになってな。しかも最初はぼんやりとしか見えなかったのが最近になると鮮明になってきて……」
 「でも何も被害が無いなら気にする事も無いんじゃない?」
 珍しいな。雫はこういうのは信じるタチだと思ったけど。ホラーだけか?まぁ大体の人間はそんなもんか。
 「なら、深く考えるのはやめとくよ」
 「それが良いよ」
 こうやって早く雫に相談すべきだったのかもな。案外簡単に解決できたし。解決かどうかはわからんけど。
 「それで、今日はどの教科にするの?」
 そういえばそんな話をしてたな。 
 「昨日数学と英語やったから生物でもやるか」
 「なら生物ね」
 そういうわけで、今日の放課後は生物のテスト勉強だ。
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