煩わしきこの日常に悲観

さおしき

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第四章

第四話

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 「さっ、上がって上がって~」
 俺たちはたむの家に着いた。きれいな一軒家で、玄関から素敵な雰囲気だった。
 「おっ、お邪魔します」
 如月先輩は案の定ガチガチだった。
 「雀卓は一階の客間にあるからついてきて」
 「客間?」
 如月先輩が少しガッカリした感じで首を傾げていた。そう、野中家は家族ぐるみで麻雀を楽しんでいる。たむのおじいちゃんなんかは元プロだしな。
 「如月先輩、頑張ってくださいよ」
 「言われなくとも」
 そうして着いた客間には、全自動の雀卓があった。ちなみにこれ30万くらいするやつ。
 「まずは自己紹介からかな?私は野中たむ。翔くんのいとこで、フィアンセね」
 「「「「「えぇぇぇぇ!」」」」」
 その場にいた誰もがその発言に驚いた。
 「ちょっと待て、どういうことだ」
 流石に俺も慌てて聞き返す。
 「どうもこうも、覚えてないの?小学校の時の話」
 小学校の時の話?何のことだ?
 「流石に雫ちゃんが私のことを忘れてるなら覚えてないのも仕方ないかな」
 「それでその小学校の時の話って?あと、私は嶋田葉月、よろしく」
 「葉月ちゃんね、よろしく。それでその話内容は、昔私と翔くんと雫ちゃんで遊んでたときに、雫ちゃんが『わたしおおきくなったらこれでたむちゃんにかって、かけるくんのおよめさんになる』って言ってきたから『ならわたしがかったらかけるくんはわたしのだんなさんね』って言ったら翔くんったら照れちゃって、その日はまともに顔も見れなかったんだよ。あ~可愛かった~」
 そんな話があったなんて……都合よく消去してた。それは雫も同じらしい。顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。
 「ちょっと翔!」
 小声で葉月が話しかけてきた。
 「なんでそんな大事なこと忘れてんのよ!」
 「仕方ないだろ」
 「如月先輩もう完敗じゃないの、あんたのせいで!」
 マジじゃん。そう思って如月先輩の方を見ると、なんとも言えない表情をしていた。
 「如月先輩。大丈夫です。勝てば先輩のアピールは成功なんですから」
 フォローになって無い気がするけど、どうにかしなくては。
 「だよな。勝てば良いんだよな、勝てばよかろうなのだぁぁぁ!」
 単細……単純で助かった。
 「とりあえず、自己紹介の続きということで。僕は雨宮彼方、翔と最上さんとは中学からの友人です」
 彼方がなんとかその場を収めてくれた。コイツやっぱ流石だな。
 「彼方くん、ね。後で中学時代の話たっぷり聞かせてね」
 「もちろん」
 前言撤回。コイツ、話をややこしくしやがって。
 「ならそろそろ始めよっか」
 そう言って、たむ、俺、雫、如月先輩は準備を始め、彼方と葉月は近くの椅子に座って、何やら会話をしながら、俺たちを眺めていた。
 サイコロで場所を決めて、俺たちは各自自分の場所に座り、ドラを決めて、手牌を用意した。
 「なら始めよっか」
 いざ、如月先輩の恋の麻雀、スタート。
 東一局0本場、親は雫。ちなみにドラは一筒イーピン。ちなみに、雫、俺、たむ、如月の順番で親が回ってくる。最初の手牌としては悪くないな。運が良ければ、立直リーチ、三色、平和ピンフ断么九たんやお当たりができそうだ。なんて感じで進んでいき。結果は、たむが如月先輩に満貫を直撃させた。容赦無さすぎんだろ。そして、たむは雫にドヤ顔。それに対して雫は何故か静かなる闘志を燃やしていた。女子って怖い。
 続く東二局0本場、ドラは南。親だからなんとしても上がりたいところ。今回はあんまり高いのは狙えそうにないな。ここは聴牌にして流局狙いだな。
 ん?如月先輩の捨て牌危ないな。このままじゃまたたむに振り込むかもしれんな。仕方ない、ここは盾になってやろう。俺は手牌の南を切る。ここでたむがロン。自風、ドラ三とまたもや満貫。やばいな、このままだと俺が跳んでしまう。如月先輩、しっかりしてくれよ。
 続く東三局0本場、ドラは白。しかもたむが親という最悪な状況。ここはたむから和了って如月先輩に繋げたいところ。雫が白と中で鳴き、俺が東で鳴いた。ここは積極的に行かないとな。するとここでたむが立直をかけてきた。マジカよ。捨て牌を見る限りじゃなんとも言えないのが余計に怖いな。でも雫はその圧に屈せずにたむが切ったのに対してロン。小三元、白、中、ドラ三と高得点を奪取。後は如月先輩、頑張って!
 そして迎えた東四局0本場、ドラは五萬。親は如月先輩。ここは上がりまくってそのまま1位になるのがベストだろう。俺は完全にバックアップにまわるとするか。如月先輩も意地を見せたのか、0、1、2、3本場と安い手ながらも連続和了り、見事1位まで来た。後は4本場、ここを乗り切るだけ。
 「結構盛り上がるね、やっぱこうしてやるのは楽しいね」
 たむがそう呟いた。
 「でも翔くんがかかってるから負けられないね」
 「悪いけどたむさん、勝つのは私です」
 なんと、雫がたむに対抗してきた。何このやり取り。俺が恥ずかしいんだけど。
 「すみません、僕このあと用事があるのでここでお暇させていただきますね」
 と、彼方が告げた。
 「わかった、今日は来てくれてありがとう。また学校で中学の話たくさん聞かせてね」
 とたむが返す。
 「では、お邪魔しました」
 そう言って彼方は家へと帰っていった。
 「さて、気を取り直してオーラスやりますか」
 そしてオーラス再開。ドラは六萬。ちなみに今の順位は如月先輩、雫、たむ、俺の順番だ。如月先輩に上がらせて、いい感じに終わりたいところ。だがたむは恐ろしいことをしてきた。白、發、中で鳴き、上がれば大三元という形を作ってきやがった。厳しすぎる。如月先輩、なんとか振り込まずに上がってくれ。おそらくたむの和了り牌は三、六筒サブローピンだろう。にしてもヒヤヒヤするな、この状況。捨て牌見る感じだと、雫は聴牌してそうで、如月先輩はなんともって感じだな。ちなみに俺は四暗刻聴牌だが、和了るつもりは無い。そんな感じで進んでいると、
 「ロン。断么九、平和、ドラニで、12000」
 その声の主は雫だった。
 結果としては、雫、如月先輩、たむ、俺の順番となり幕を閉じた。
 「雫ちゃんスゴイね。正直、絶対勝てると思ってた」
 「でも、危なかったから奇跡ですよ」
 「それで、……」
 「えっ、そっそれは……」
 終わってそうそう何を話しいてるのやら。
 「明坂君、ありがとう」
 「如月先輩、惜しかったですね」
 「いや、僕の完敗だよ」
 「あっ、如月くん」
 俺たちの会話にたむが割り込んで入ってきた。
 「何?野中さん」
 「如月くんって麻雀結構強いんだね。それで、もし良かったら……」
 ん?この展開は……
 「麻雀部に入らない?」
 「……もちろん!」
 如月先輩は笑顔でそう応えた。
 これで今回は依頼達成って感じだな。
 「なら、俺たちは帰るよ」
 「えー、もうちょっとゆっくりしていっても……」
 「明日学校だし、課題もあるし、また今度、な」
 「そうだね、これからが大変だもんね」
 と、ニヤニヤしながらたむは言ってきた。そして、何故か雫は真っ赤だった。
 「如月くんは?帰るの?」
 「部活の事を色々聞きたいからもう少しいいかな?」
 「全然良いよ!」
 「なら俺たちは帰るよ」
 「うん、じゃあね~」
 そうして俺たちはたむの家から出た。
 「私はこの辺で用事があるから、先に帰ってて」
 「わかった。じゃあな葉月」
 葉月は用事でどこかへ行き、俺と雫とで電車に揺られながら帰っていった。
 「今日はどうだった?たむの事、思い出したりした?」
 帰り道、ふと雫に聞いてみた。
 「スゴイ緊張した。でも、楽しかった」
 「如月先輩はたむと近づけて良かったな。俺たちも依頼達成だな」
 「だね」
 「そろそろ着くな」
 気がつけば俺たちは家の前まで着いていた。
 「ならま…」
 「あのね翔」
 雫が呼び止めてきた。
 「どうした?」
 「あのね、今日たむさんと麻雀しててなんだか不思議な感覚だった。やる前に覚えてないけど昔の話を聞いて恥ずかしかったし……」
 俺もだけどな。
 「でも、気づくことができた。自分の正直な気持ちに」
 自分の気持ち?
 「私、翔の事が好き。ずっとずっと好きだった」
 形容しがたいというかなんというか、言葉にならない感情が込み上げてくる。
 「私はずっと翔の事が好きでした。私と、付き合ってください」
 それを告げる雫の目には涙が浮かんでいた。俺の答えはもちろん一つしかない。 
 「俺も、雫の事がずっとずっと好きだった。俺の方こそ、俺と付き合ってください」
 俺の語彙力で最大限気持ちを伝えるのはこれが精一杯だった。
 「ホント?」
 雫は驚いた表情でそう聞き返してくる。俺には効果抜群だった。
 「本当だ」
 「やったっ。嬉しい」
 雫は更に泣き出した。
 「ほら、コレ使えよ」
 雫は俺から受け取ったハンカチで涙を拭く。俺はその姿に思わず抱きついてしまった。俺は過去一の幸せを感じていた。
 ただ、何故かはわからないが、とてつもないデジャヴを感じていた。

 
 
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