煩わしきこの日常に悲観

さおしき

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第二章

第五話

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 「どうだ?何か進展は」
 会長が俺に聞いてくる。どうやら会長はずっと俺が口を開くのを待ってたみたいで、少し申し訳なかった。
 「とりあえずそこそこ強い仮説は立ちました」
 「本当か!皆!耳を傾けてくれないか!」
 会長は大声で全員に呼びかける。
 「会長、落ち着いてください。それより何かわかったのですか?」
 鹿島さんがそう反応する。大人だなぁ…
 「犯人がわかった!」
 「と言っても、あくまで仮説ですけど」
 保険としてそう付け足しておく。粗があったときが怖いからな。小○郎のおっちゃんみたいに。
 「まず、皆には学校付近からここに来るまでを聞きたいんですけど、鹿島さんからお願いします」
 「はい、私は学校から見て校門の左側から来ていて、今日も同じ道で来ました」
 「道中について詳しくお願いできますか?」
 「道中って言っても…先程も話した校門前のマンホールの工事の最中だったことくらいしか……」
 「他にないなら、それで大丈夫です。次は会長、お願いします」
 「俺は鹿島さんとは逆の方から来ていて、道中は俺も工事くらいしか思い当たる節が無いな…」
 「わかりました。次は渡辺さん」
 「私は、会長と同じ方向から来ています。道中に関しても、前に言った二人と同じです」
 「葉月は?」
 「方向はわかってると思うけど、翔たちと同じよ」
 「道中については?」
 「雨だったからあまり周りに意識は行かなかったけど、少なくとも私が来たときには校門前で工事なんて行われてなかったわ」
 「悪いな、体は大丈夫か?」
 「平気よ。それより、これで何がわかったわけ?」
 「俺の仮説が正しければ、犯人はこの中にいる」
 一度は言ってみたいセリフトップ3に入るセリフを言えただけで俺はもう…幸せだぜ……
 「ちょっと待ってください。どうしてこの中にいると分かるんですか?」
 「この中にいる、というか、その人がここにいる、って言った方が正しいかもしれませんね」
 「どういうことか、説明してくれ」
 そう会長が説明を促してくれた。それにより、他のみんなも一気に静まり返る。
 「今の発言の中で、一人だけおかしなことを言っていたのに気づきませんか?」
 全員が一斉に考えだす。が、それを待たずして、俺は説明を続ける。
 「その人はこう言いました。『工事は行われていた』と。ちなみに俺たち三人がここに来るときには工事現場はありました。が、工事は行われてはいませんでした。既に撤収の準備の最中だったからです。それに葉月がそこを通ったとき、工事は行われていなかった。これが、何を示すのか、わかりますか?」
 「勿体ぶらないで説明してくれ」
 会長が、そう低いトーンで言ってくる。さすがの会長ももう我慢出来ないのだろう。この中に犯人がいるって事実に。
 「わかりました。要するに、これは葉月が来たときには既に工事はしていなかったということです」
 「それがどう関係するの?」
 今度は雫が聞いてきた。雫は昔から正義感が強いからな。そうでなくてもここまで言えば誰だって気になるものだ。
 「ここに来た順番は、会長、渡辺さん、俺、彼方、雫、葉月、そして鹿島さん」
 全員が息を呑んだ。そしてある人物に目線を向ける。
 「そう、犯人は鹿島さん。あなたです」
 「どういうことですか?」
 当然の反応だった。自分が疑われればな。誰だってそーする。俺だってそーする。
 「さっき言った事をまとめるとあなたの発言がおかしいんですよ」
 「どこがですか?」
 鹿島さんは少し苛立っているように感じた。それでも、冷静にも見えるところが流石だった。
 「葉月が、来たときには工事は行われていないのに、どうして工事が行われていたと言ったんですか?あなたは葉月よりも後に来た。それも数分後に。なのに、何故そう言ったんですか?」
 「違うところかもしれないというのは?」
 「それはありえません。あなたはしっかりと校門前と言いました。それに、さっき俺との会話が成立したことがそれを証明しています」
 「でもそれだけで証拠って言えるんですか?」
 「確かにこれは証拠としては弱いでしょう。なら、あなたの靴はどうして濡れてないんですか?」
 「どうして濡れてなくちゃいけなっ……」
 「気づきましたか?あなたは葉月よりも後に来た。先に来た葉月は、傘をさしていて濡れている。あなたはその数分後に来たが、その時も雨は降っていたはず。なのにどうして濡れていないんですか?」
 「絶対に濡れるなんて理屈でもあるんですか?」
 「傘のサイズ的に葉月の傘の方が大きいことに関しても、同じ返しができますか?」
 「もちろんです。あと、その写真が本物で、外部の人間が犯人とかはありえないんですか?まだ現実的だと思いますけど…」
 「それはないです。写真の日付と時間を見てください」
 そう言って、封筒を鹿島さんに見せる。
 「全部同じなんです。この時点で、偽物だって事は事実になります。外部犯も無いとは言い切れないですけど、こんなミスをするようなやつが、こんな完璧な密室トリックを作れるとは思えませんし、この茶封筒は会長の机に置かれていた。つまり、生徒会室についてそこそこ知っている人間が犯人だということです」
 「でもそれも憶測でしょう?決定打は無いんですか?決定打は」
 そうきたか。
 「決定打は……」
 「無いとは言わせませんよ。ここまで人を疑っておいて」
 「もちろん………ありますよ」
 「ならそれを証明してください」
 間髪入れずに俺に説明を求めてくるあたり、よっぽど必死なんだろう。まっ、当然といえば当然か。
 「まず、犯人はドアからこの中に入りました」
 「ちょっと待ってくれ、俺が来たときは確かに鍵は閉まってたぞ」
 「なので犯人は鍵を使って中に入りました」
 「どうして犯人は鍵を持っているんだ?鍵は俺が持っていたし、マスターキーは宿直室にあるし
、それにマスターキーが使われたなら騒ぎになるだろうし、外部犯の説がまた出てくるんじゃないか?」
 「外部犯に関してはさっきの理由でありえません。ということは、鍵を持っているのは会長になります。でもその前は?」
 「だから勿体ぶらないでくれ」
 「鍵は会長が管理しているんですよね?」
 「さっきも言ったが、その通りだ」
 「その前は?」
 「私ですけど」
 「そう、つまり鍵を校外に持ち出せて、できる機会があるのは会長と鹿島さんの二人だけなんですよ」
 「言いがかりにも程があります!」
 遂に鹿島さんが怒鳴った。
 「そうですよ。それに鍵の複製って時間がかかるんじゃ……」
 「このタイプの鍵はディスクシリンダーってやつなので5分もあれば複製可能です。それに、言いがかりだって言うんなら……所持品を検査しても、鍵なんて出てきませんよね?」
 チェック・メイト。
 その手応えが俺にはあった。
 
 

  

 
 
 
 
 
 
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