煩わしきこの日常に悲観

さおしき

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第二章

第二話

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 俺たちに任された作業は思った以上に面倒くさかった。
 「この作業、地味なのに結構やりがいがあるね」
 疲れてる空気感を和ませようと彼方が口を開く。しかし、皆反応する余裕もないくらいに真剣だった。
 「にしても作業開始から今日で何日経ったんだ?」
 「そっか、もう3日も経つんだ。意外に早いね」
 この作業を初めてもう3日になるのか。3日で半分しか終わらないなんて……やはり俺にデスクワークは向いてないな。
 なんて思って横を見ると、葉月と雫はもう少しで終わりそうだった。流石過ぎるだろコイツら。どうしたら作業効率が良くなるのだろう、教えてほしい……なんてガン○ーラを思い浮かべてると、
 「頭と手を動かさないといつまで経っても終わらないよ」
 と、雫から説教を喰らった。説教をする余裕があるのが羨ましい……
 「彼方はあとどんくらい残ってるんだ?」
 コイツは俺と同じくらいだろう。なんてたかをくくっていると
 「もう終わったよ」
 ………何……………だと……
 「翔は結構残ってるね。明後日の文化祭当日までに終わらせればいいんだからなんとかなるよ」
 忘れていた。中学の時、コイツが本気出すとか言って全国模試で3位取ったことを。
 「あと2日、ね…」
 鹿島さんがそう呟いた。
 「そういえば今日も会長は別の仕事なのか?」
 「はい。会長はここ最近ずっとそれっきりで」
 鹿島さんが返してくれた。この人は年下相手でも常に敬語で喋ってくれている。
 「すみません、なんかタメ口で言っちゃって」
 「気にしないでください」
 会長はあの日依頼一度も俺たちと会っていない。よっぽど忙しいんだろうな。だから俺たちに仕事させてんだろうけど。
 「そういえば、鹿島さんと会長って同じクラスなんですか?」
 「貫良瀬会長は2年生ですよ」
 「マジですか?」
 即座に聞き返していた。
 「ええ」
 マジかよ。選挙は去年だから1年生の頃から生徒会長やってんのかよ。すごすぎんだろ。
 「それと、他の役員はいないんですか?」
 今度は雫が質問していた。
 「私と書紀の渡辺さん以外はクラスや部活の出し物の方や色んな見回りに行っています」
 「そうですか。鹿島さんは大丈夫なんですか?クラス」
 「私は生徒会優先ですから」
 鹿島さんがどれだけ真面目なのかがわかるやり取りだった。
 「くれぐれも体調には気を付けてくださいね」
 「ありがとう」
 雫の気遣いに鹿島さんは笑顔で返す。
 鹿島さんは一昨日と昨日、体調不良で休んでいた。元々体が弱いのかは知らないが、体調を崩さないに越したことはない。
 「にしても、あと2日で終わらる量じゃないだろ……」
 「文句ばっかうっさいわね!いいから作業作業!」
 葉月の説教を受け、俺は作業を続けるのであった。

 「今日はここまでです。また明日、お願いします」
 鹿島さんがそう言った途端、疲れがどっと雪崩れて来た。
 「やっと終わった~!これで家に帰れる~」
 「相当お疲れのようだね、翔」
 コイツ、涼しい顔しやがって…
 「でも翔、あれからちょっとしか終わってない」
 雫が痛いところをついてくる。頼む…やめとくれ……
 「まだ明日がありますから。終わらなかったら私も手伝いますし……」
 鹿島さんに変な気を使わせてしまった。申し訳ない……
 ちなみに、彼方はもう自分のタスクは終わっている。雫と葉月は残りわずかで、確実に明日の早い段階で終わるだろう。
 それに比べて俺は半分とちょっとしか終わってない。明日で終わるかが心配だ……流石に鹿島さんに手伝わせるわけにはいかないし……
 「これ、持ち帰っちゃ駄目ですか?」
 家でやればなんとか終わりそうなんだが。
 「書類には個人情報も乗ってるから持ち出しは厳禁なんですよ。だから、すみません」
 駄目だった。理由が理由だから何もいいかえせない。
 「まぁ明日は幸い土曜日だからさ、終わらないなんてことはないよ」
 煽ってんのかコイツ……
 「とりあえず、今日は帰るわよ」
 葉月のその言葉で俺たちは帰りの準備を済ませた。
 「明日は7時50分集合なので、気を付けて来てください」
 となると7時起きか…起きれるか不安で仕方ない。
 鹿島さんの連絡を頭に入れて、俺たちは生徒会室を後にした。

 「そういえば、葉月はどこに住んでんだ?」
 コイツの中学以前の情報が何一つ無い。聞いて何かあるわけでも無いが、聞いておいて損はないだろうからな。
 「今は学校から徒歩10分のマンションに住んでるわ」
 今は?何か気になる言い方だな。
 「中学以前は福岡にいたわ。色々あってこっちに越してきたわけ」
 理由を濁す辺り、あまり聞かれたくないんだろう。
 「なんで今更そんなこと聞くわけ?」
 当然の質問だった。
 「出会ってもうすぐ1ヶ月近く経つってのに、お前のこと何も知らなかったからな…」
 「そ」
 葉月の返事は素っ気ないものだった。
 「確かに私たちって葉月さんの案外知らないね」
 「まぁ機会があれば色々と話すかもね」
 「聞くのを楽しみにしてる」
 雫が笑顔でそう返す。
 「そ」
 またもや葉月の返事は素っ気なかった。儚げなその葉月の横顔は、満月をバックにすると絵になるような、そんな横顔だった。
 「私はコッチだから、明日ね」
 そう言って、角を曲がり、暗闇へと葉月は消えていった。
 
 
 
 
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