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紫農奴になった私

馬術訓練&魔物討伐訓練に付き合えって。超面倒いよ

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 ロゼルハルト様の声が私の耳に届いた。

「シルア、自分が蒔いた種は自分で刈り取ってくるんだな。君なら簡単に出来るだろ」

 ロゼルハルト様の言葉が、私の胸に突き刺さる。
 この言葉が掛けられた理由は、少し前の話をしなきゃいけないよね。
 それは、私の目の前でされたベスさんの告発から始まった。
 昨日の野外での、チョコッとだけ派手になった魔力奉納の件を、何故か知ってたベスさんから、ロゼルハルト様に密告の言葉がツラツラと語られて。

 それで、顔を真っ赤にしたロゼルハルト様から、色んなお小言の後にこの言葉を貰ったってわけ。

 なんでも周辺地域一体の土地の浄化をした影響で、その辺を縄張りにしていた魔物達が一斉に逃げ出したらしくてさ。

 その魔物達は大農場のあちこちで暴れま立っているそうで、昨日から警備隊員達がその対処に追われているらしいんだって。

「え~ぇ.....私1人で逃げ出した魔物を駆除するなんて無理ですよ」

 私にとって魔物とは。
 怖い、汚い、臭いの3拍子が揃った文句なしの厄介者。
 それにこの頃は、面倒臭いが加わってきたから、出来たら勘弁して欲しい案件になる。

「何も1人でやれとは言っていない。警備隊の駆除作業を手伝えと言っている」

 ロゼルハルト様はぎろりと私を睨む。

(うぅ、その顔怖いって)
(怖いけど、まだ引かないもん)
(私の言い分だけは話しておかないと)

「でも、私が参加したら危ないですよ。警備隊員の人達が.....。巻き添いになった警備隊員の人達を見るのは嫌なんです。自分でいうのもなんだけど、私って力の加減が出来ないから、きっと周りの人達に迷惑を掛けますよ」

 オセリアさんとベスさんは、私の後ろにいるから、今どんな顔をしてるかわからない。
 でも、きっと苦々しい顔をしてるんじゃないかと思ってしまう。

「君は全く考えが足りていない。もう少しその頭を動かしたほうがいい。君には『神のシステム』上位権限者の力があるはずだろ。上位権限者の力を使えば、この程度の状況ぐらいだったら簡単に収めれるはずだろう」

 これはぷっぷちゃんのことを言ってるみたい。
 ロゼルハルト様にもあの時に具現化した激怒ぷんぷんなぷっぷちゃんを見られたからね。

「それは、ぷっぷちゃんの力で何とかしろってことですか?」

「先程から、何度もそう話している」

「君は『神のシステム』の上位権限者になって日が浅いから、勿論『神のシステム』について何も知識がないということは、私も知っている」

「知っているなら、まだ、私にはその役目は早いと思いませんか?」

(──うん、早いよ)

 私は純粋な心を持った可憐な乙女なの。
 つい最近までは、主食が藁だった牛になりたい女の子だった気もするけど。
 そんな女の子が魔物退治するって変だと思わないのかな。
 せめて私が成人してからだったら、まだ話はわかるけど、私はまだ未成年のお子ちゃまなの。

「だがな、いつまでもその甘えた気持ちにしがみつく訳にもいかないだろう」

 いやいや、甘えれる時に甘えるのが子供ってもんだと思う。
 もっと慈愛の心を持ってほしいよ。
 ロゼルハルト様にはそれが必要だって。絶対そう思う。

「この年で上位権限者となる者は、過酷な運命に翻弄されるだろうということは、容易に予測がつくことだな。怠けていては、いずれしっぺ返しを食うのは、君だけではなく、もしかしたら私達や広く言えばこの国に暮らす人々かもしれん。誰がどう言おうが、君が神に選ばれたのだけは、間違いなさそうだがらな」

「ええっ……私、神様に何かさせられるんですか?」

「ああ、『神のシステム』の上位権限者になった者は、いずれ神から使命を授かるだろう。これまでがそうだったからには、君も例外になるとは言えないと私はそう思うが、君はどう考える?」

「えぇ~.....嫌ですよ.....そんな重そうな使命.....」

 ロゼルハルト様にバトンタッチしたい気分。

「いつの日かはわからないが、そうも言っていられない日が必ず来るはずだ。その日の為にも、上位権限者になったその力を正しく使えるように学んで行かなければいけないんだよ。分かるかい、シルア」

 何か上手く乗せられてる気がするけど。
 でも、話を聞いてると正しいような、正しくないような。
 うぅ、頭が熱くなって来た。

「うぅぅ……何となく」

「一般的な『神のシステム』の上位権限者なら、そんなことは造作もないらしいと聞いたことがある。やり方さえ掴めれば君にも出来るはずだ」

 まあ、ぷっぷちゃんにお任せするのは、大分、こつが掴めてきたから。
 出来なくはないかもしれないけど。
 でも、ロゼルハルト様の話に上手く乗せられてる気が捨てきれない。

「使い方は、直接『神のシステム』に問いかければいいと聞く。問いかけさえ正しく行えば、きっと、その問いに答えを返すはずだろう」

「そもそもだな.........力を持つものは、正しく力を使わねばならないのは分かるだろ」

 あ~ぁ、まだお小言が続きそう。
 話す方も大変だけど、聞く方も大変なんだよ。

「まさか、幾ら年が幼いとは言え、それすら思い浮かばない程に、考えが浅はかとはいえまい」

「私もそこまで、君が愚か者だとは思っていない。君が優しい心根なのは知っているからな」

 私の顔が緩んだのは、自分でも分かった。
 褒められなれてないから、こんな言葉でも嬉しくなってしまう。

「君が優しい心根を持って善意を尽くすのを、止めろとまでは言わない」

「だがな、大勢の者達にその力を行使するには、その身には耐え難い責任が伸し掛るものだ」

「君には、その自覚があるのか?君が大きな力を無自覚に使うことで、多くの者達の感心を買うことになるのを一度じっくりと考えたほうがいい。君のように場当たり的に能力を行使しているようでは、いつの日か、きっと痛い目に遭うぞ」

 ちょっと褒めてから、奈落に叩き落とす。
 これがロゼルハルト様のいつもの手法。

(こんちくしょう)

「........はい」

 ショボンと反省する私。

 これ見よがしに、ロゼルハルト様のお小言が津波のように押し寄せる。
 絶妙なタイミングで息継ぎするロゼルハルト様の妙な所に感心してしまう。
 これは、長いバージョンのお説教が始まりそうだ。

(もう無理。もう耳が仕事したくないって)

 だから、しばらく聞いてる様に装って、頭を自分の思考の方に向ける。
 
 ロゼルハルト様には、色々バレ始めてる。

(これは、もう仕方がないよ)
(あの状況下じゃね)

 昨日の取り調べの時に、ハチャメチャな争いがあってゴタゴタしてからね。
 そのゴタゴタを物の見事に収めたのは、目の前でお説教をしてるロゼルハルト様だもん。

 そんな取り調べ中に起こった、争い事のそもそもの原因なんだけど....。

 取り調べが始まり、時間が立つと1人の取り調べ担当官達からある提案があって……。

 それは……。

 ──ステータス完全開示の要求。

 たしか、こんな言葉から始まった。

「貴様は奴隷だ。つべこべ言わずにさっさとステータスを見せろ」

 1人のウザイ取り調べ担当官の要求を、徐々に支持する他の取り調べ担当官達。
 こんな感じで私を問い詰める状況に成り始めたのがキッカケかな。
 私もチョットカアッとなっちゃって。
 それで、こんな風に要求を断ってやったの。

「嫌です。お断りします」
「例え見せるように強要されても、おじちゃんにだけは見せません」
「例え奴隷でも、私には断る意思がありますから」
 
 こんな言葉でキッパリと断ったことがそもそもの発端だと思う。
 その言葉にうざい取り調べ担当官が切れて、わめき散らすもんだから。
 余りにもうるさののしる取り調べ担当官の1人が超うざくなって、黙らせようと両目に魔力を集めてにらんでやると、そのウザイ取り調べ担当官は、机の上に気を失うようにパタリと倒れこんでしまって……。

 その状況に感化できない警備隊員達が、一斉に私のほうに押し寄せ──。

 ──そこでぷっぷちゃんの大暴走。

 激怒ぷんぷんのぷっぷちゃんは、真紅に染まった円状のパネルで、私を完全に包み込む。

 その真紅のパネルを具現化させてからは、赤い放電が円状パネルを覆って、周囲の状況なんか、何も関係がないという感じでメチャメチャにしちゃって。

 嵐が過ぎ去った後には........玉子の殻で覆われた彫像で部屋が溢れちゃったの。

 その後に遅れて部屋に入ってきたロゼルハルト様御一行。

 この状況を目の当たりにした、ロゼルハルト様を警備していた大人達が、再び私に襲いかかろうとするけど.........。

 ロゼルハルト様がそれを寸前で制止して......その後は多くの石像の視線と、険悪な視線で睨む警備員達が見詰める中で、再び話し合いの場が設けられ....。

 ロゼルハルト様が繰り出す正論で、私の話を次々に論破していってタジタジになったけど、何とかステータス完全開示はしなくてもいいってことに落ち着いて、そこで昨日の話し合いは終わったの。

 ぷっぷちゃんの議事録は、私が提案したことと、ロゼルハルト様が話したことを一覧にしてもらったけど、ロゼルハルト様と最終的な合意にまでは至っていないから、どうなるのかは今後の交渉に掛かってる。

 もう少し話し合う必要があるって感じだったけど、夜も遅くなったからとその日は開放されたんだ。

 ロゼルハルト様とは、もう一度時間がある時にお呼び出しがあると覚悟はしてたけど、まさか、次の日の朝に再び顔を合わせるとは、思っていなかったよ。

 ある程度昨日の回想をし終えた所で、ロゼルハルト様から檄が飛んだ。

「シルア、聞いているのか。目線が定まっていないぞ。よそ見をせずに聞くんだ」

 ビクッとして姿勢を正す私。

「........はい」

 遅れて気のない返事をすると......。

「は──、言葉だけでは無理そうだな........まだ幼いから仕方が無いのかもしれないが。私の目には、君に言葉で説明しても理解していないように映る。これ以上、君を放置するのは、私にもリスクがありすぎるからな。これからの訓練を兼ねた討伐には、私も同行するとしよう」

「........はい?」

 突然の申し出に、短い疑問の言葉を返す。

(うぅ.....嫌だ。また要らない人が増えちゃった)

「ベスネシスから、報告を受けた現場を間近で見て、これから対処しなければいけない事案もある。ベスネシスからの報告が真実であったとすれば、今後、神殿も介入してくる可能性も充分に考えられることだ。その為にも、詳細な現場検証も必要だろう。私も現場を何も見ていないのでは、その後の対処が遅れるからな」
 
 ロゼルハルト様の言い分は何となく解る。
 実は私も気には成っていた。
 浄化した後の土地がどうなったを。
 ベスさんは、私が土地を浄化した件で、色々な現象が起きていることを報告していた。
 ベスさんがいうには、次元空間からにじみ出た大量の魔素を浄化したまま辺り一面に撒き散らしたから、周辺の木々や動植物に見たことのない影響を及ぼしてるんだって。

 木々で言えば、今の季節は春なのに、もう果実をつけただとか。
 植物で言えば、清浄な霊園でしかとれない貴重な薬草が沢山生えてきただの。
 動物で言えば、滅多に目にしない花の妖精が沢山踊ってるそうで。
 泉で言えば、水面から白い浄化の霧が立ち込めて、水の中では虹色の魚が泳いでいるらしい。

 今日、こんな目に遭わなければ、どんな状況になったのか、実は様子を見に行こうと考えてもいたから都合がいいとも言えるけど。

 大勢の大名行列を引き連れていくことに成ろうとは、思ってすらいなかった。

「アイエッタ、午後からの予定は全てキャンセルしておいてくれ。面会予定者には、また後日会うことにする。それから、現場にはシルアの連れ合いも合流するように手配してくれないか。たしか、怪我も全て治ったと報告を受けている。その者達なら、この考えなしの馬鹿を上手く制御できるかもしれん。頼んだぞ」

 ロゼルハルト様の口から、思いも寄らない話がでた。
 思わず2人の話を遮って、ロゼルハルト様に質問をぶつけた。

「えっ!!ルバッカとフェゼラも呼ぶんですか?」

 落ち込み沈んだ気持ちが急浮上していく。
 だけど、そんな思いなど、どうでも良いとロゼルハルト様が口を刺す発言をした。

「シルア、今はアイエッタと話している。君には後で説明するから今は邪魔しないで大人しく聞いていてくれないか」

「......はい」

 再びしょぼんとする私。

「ロゼルハルト様、どこにお連れしましょうか?」

 この声はアイエッタお姉さん。白い農奴服を着た優しくて綺麗なお姉さん。
 私とはアイちゃん、シルちゃんで呼びあいっこするくらいの仲の良さ。
 話しながら私を見つめてきたから、軽く手を振ってみたら、微笑んでくれた。

「第一区の作業小屋で合流することにしよう」

「はい、了解です。他に何かございますか?」

「ああ、そうだ。昨日のシルアとの話し合いで、私が付き人を付けるように提案したところ、シルアは5人という人数を指定してきた。おそらくその2人には、ここで出来た仲間がいるんだろう。その者等がもしも居たとすれば、合流地点に一緒に連れてきてくれ」

 うわっなんか色々バレてる。
 あの見透かすような目で見られる時は、今度からロゼルハルト様注意報を発令しなきゃ。

「はい、その者等の護衛はいかがいたしましょうか」

「君らに任せる。武器の使用も許可しよう。ではそれで宜しく頼む」

「了解です。では失礼します」

 ロゼルハルトはそのままの姿勢で軽く頷く。
 返事を終えたアイエッタお姉さんは、ここから離れていった。
 アイエッタお姉さんが居なくなったのを見届けると、ロゼルハルト様は再び視線を私に向けた。

「さてと、それでは、話の続きだが、包み隠さず話すとしよう。私は君がある程度成長するまでは面倒をみようと思っている。その代わりと言っては何だが、君も我々に力を貸して欲しい。これは、ギブ&テイクのビジネスライクな付き合いだ。君達全員が奴隷から開放できるように便宜を図っても良いとすら思っている。勿論、君に群がる者達を近づけなくして、見守ることも出来る。どうかな。それでならお互いに損しないと思うんだが。まあ、しばらく時間を与えるから考えてみてくれ」

「.........分かりました」

 行き成りそんな風に言われても、私の考えで全て決める訳にはいかない。
 これは、ルバッカとフェゼラにも相談しなきゃ。

「あとは、馬に乗って移動するときにでも、詰めた話をするから聞いていてくれ。では、そろそろ私達も行動に移すとしようか。シルア、君は私の馬の乗るんだ」

 そんな感じで私は、馬術訓練といつの間にか討伐訓練もすることになった。

 ロゼルハルト様が ロゼルハルト様に支えられた体勢で騎乗した私は、無我夢中でロゼルハルト様の持つ手網を強く握り締めて、凄い速さで駆けていく馬の背で激しく揺られていた。

 警備員達が騎乗した馬の隊列は、綺麗に隊列を揃えている。

 彼らは、ロゼルハルト様と私が騎乗する馬を中心に据えて、猛然と突き進む。

 警備隊員達は、おそらく100人前後の人数が、馬の背にまたがっていて、その隊列が、土埃つちぼこりを立てて駆けていく。

(もっと、ゆっくり馬に乗って練習するはずじゃ、無かったの?)
(こんなの話に聞いてないよ~)
(オセリアさんの嘘つき~) 
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