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新人農奴になった私
別視点(聖女ユリスシ─ア 第3階級聖女)アスバール公爵領の神殿にて①
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聖女は人々の希望と平和の象徴。
聖女がいるからこそ、国の安寧が保たれています。
この世界には、聖女や聖者という希少なお役目を担い、その身体で耐え難い重責を不屈の魂を持って耐えうる者達が存在しているのです。
その者等はその身に宿した聖なる浄化の力──聖力といわれるスキルを使い、その類まれな才能を余すところなく民衆の救済に用いて、大地の隅々に染み渡る穢れた魔素を祓い清めることで、大地に新たな恵みをもたらしています。
その聖女の1人に、わたくしが神殿から正式に任命され、民衆に奉仕するように命じられてから、ようやく10年の月日が流れました。
わたくしの名前はユリスシ─ア・セイ・アスバールと申します。
アスバール公爵家のアスバール姓を名乗ることを許されてはいますが、公爵家内では、何の権力も持たないただの養子でしかありません。
元々の両親は、領都から離れた大地で、農作や放牧をして暮らす普通の家族でした。
公爵家では、養父様は時折神殿にお顔を見せにこられますが、他のご家族様との面識はほんの一部の人達以外にしかなく、ほとんど面識がないのが実情に成ります。
年齢は今年で区切りのよい20歳になります。
『神殿の箱入り娘』と一部の神官達で揶揄されているようですが、それは正しく今のわたくしを言い表していると思います。
公爵様が何度も見合い話を持ちかけてきますが、聖女のお役目を理由にしてお断りしているのも事実ですから。
まあ、わたくしに関することは、今は其れ位でいいでしょう。
この騒々しい日に、のうのうとわたくしの自己紹介で時間を浪費することは出来ませんから。
わたくしが年がら年中引きこもる神殿では、此れまでに無い大変な事態が起きているのです。
その事態に対処するだけでわたくしは、もう、正直手一杯なのです。
叶うことでしたら、誰かに助けを求めてしまいたい。誰かに縋りつきたい。
ですが、わたくしはアスバール領区を守護する聖女ですから、そんな甘えは口が裂けても言えません。
神殿上層部から聖女に任命されたわたくしにも、此れから間も無く、この事態を収拾する為の大きなお役目を与えられることでしょう。
此れからは厳然たる態度で臨まねばなりません。
今からその心構えをする為にも、一部の隙も見せないように振舞うべきなのです。
心に仮面を被るのは、精神的な負担が掛かって大変なのですが──。
──これも聖女のお役目。
ここ今となっては、自分に与えられたお努めを粛々と果たしていきましょう。
そう、心の中を整理したわたくしは、多くの護衛の神殿騎士や聖巫女達を従えたまま、歩みを止めずに神殿の回廊を闊歩しています。
神殿内部では普段の日常とは違い神殿回廊に灯る燭台の数が異様に少なく、周囲が薄暗く見渡しづらい状況でした。
正面に先に進む神殿騎士達が、なにやら集まり報告を受けているようです。
「聖女様、今の神殿内は大分荒れているようです」
「我らが先に進み、安全を確保していきます」
「聖女様は、我らの後からお出でください」
「ええ、頼みます、ロダン」
聖女筆頭護衛隊長のロダン・ビスカルトは隊員達に素早く指示を出すと、その指示に従う神殿騎士達が駆けていきます。
「聖女様、足元に気をつけてお進み下さいませ」
背後からわたくしを気遣う聖巫女エティカの声がします。
「ありがとう、エティカ」
こんな時でも、わたくしの身を案じる者が側にいるだけで、心が少し落ち着きました。
朝から神殿内部では、混乱が収まらずに日が沈み燭台に火が灯る時間になっても、その様相は、一向に収まる気配がみえないようです。
今も取り乱した姿を人前に平気に晒す大勢の神殿関係者の姿を目にします。
泣き崩れた姿勢で神に祈りを捧げている姿が、神殿内部の其処彼処で見られるのです。
酷い光景です。
頭を垂れて跪き嘆き悲しむ巫女達。
神の与えた試練を理解しようとせずに膝を屈した哀れな神官達。
神殿の価値ある調度品を破壊する信徒達に、神のお姿を描かれた絵画を必死に守る神殿騎士達。
大勢詰めかけた信徒に必死に対処する司祭様。
厳かな神殿のイメージとはかけ離れています。
まあ、それも仕方の無いことかもしれませんが。
本来、神の神託が1度も無いままに『神のシステム』のアップデートがあった記憶など、神殿に古くから死蔵され禁書となった歴史書や、秘匿された『神のシステム』の関連著書を紐解いてみても、そのような過去など載っていないはずですから。
ここに集まる泣き崩れている者達は、皆、神に見捨てらたと嘆いているのでしょう。
神の存在をこの世に証明してきた神器──『神のシステム』が、神を信じる信徒達を蔑ろにしたのですから。
わたくしはその報告を今朝知りました。
信徒達に伝わる信徒専用パスワード入力後もシステムエラーに成ると。
そうなると、『神のシステム』の信徒共有ホーム上に、誰もアクセス出来ません。
信徒共有ホーム上で使える機能が、全て使えなくなったのです。
ですから、信徒達の嘆きや悲しみも、そして怒りも理解は出来るのですが、神殿に身を置く者達には、信徒達に気を配る余裕も無いのが実情と言えるかもしれません。
そして、聖女のわたくしも今の状況を手を拱いているだけで、何の解決策も見い出せない関係者の1人。
聖女の名がこれ程、重い呼び名だと感じたことは、これが初めてでしょう。
まあ、考え込んでいても何も解決しません。
今は行動すべき時でしょう。
背後に複数の神殿騎士達や聖巫女達を従えたまま進むわたくしの一団は、異様な場景にいちいち反応せずに、そのまま無言で通り過ぎていきます。
「聖女様、信徒達に見つかったようです」
「ここは我らが対処します。聖女様はお下がりください」
「くれぐれも信徒達には危害を加えないようにお願いしますね」
「お任せ下さい」
大勢の信徒達がわたくしの周りに詰め掛けようとしますが、護衛に付く神殿騎士達が彼らを一手に引き止めます。争い事はどうにも苦手ですので、わたくしは後ろに下がりました。
「ここは彼等に任せて、遠回りになりますが、左の回廊に進みましょう」
「ロダン、任せます」
その隙を付き急いでその場を離れます。
彼等、信徒達への説明をしていくのは後回しです。
此処にいる信徒達が納得するだけの状況説明を出来るとは思いませんから。
今は情報収集が先です。
なにより、今は何を差し置いても緊急会合に出席して、夢の世界で見ていた情景を有りの侭に報告する責任がわたくしにはあるのです。
ですから、歩みを止めずに進みます。
遠回りをしたから、少し時間が掛かりましたが、漸く緊急会合を開く建造物とその入口の扉が見えてきます。
わたくしに付き従う者達の安堵のため息がしました。
無事にたどり着けたので、緊張の糸が途切れたのでしょう。
同じくわたくしも「はふ──」とため息を付きます。
「クスッ」と声が後ろから声がしました。
うふん?何かわたくしの行動が可笑しかったのでしょうか?
そんな訳がないですよね。何といってもわたくしは聖女なのですから。
筆頭護衛隊長のロダンは、周りの護衛たちに今後の指示を出し終えるとわたくしにも声を掛けてきます。
「この者達に扉の前での警護を命じましたので、聖女様はそのまま中にお進み下さい」
「ここまでありがとう、ロダン」
回廊から見える扉からは室内の光が微かに漏れているようです。
緊急会合を開く目的地である談話室の手前のドアの前に辿り着くと、扉の左右で警護している神殿騎士が重々しく扉を開けて、中に入るように促されるままに任せ、室内に足を踏み入れます。
聖女がいるからこそ、国の安寧が保たれています。
この世界には、聖女や聖者という希少なお役目を担い、その身体で耐え難い重責を不屈の魂を持って耐えうる者達が存在しているのです。
その者等はその身に宿した聖なる浄化の力──聖力といわれるスキルを使い、その類まれな才能を余すところなく民衆の救済に用いて、大地の隅々に染み渡る穢れた魔素を祓い清めることで、大地に新たな恵みをもたらしています。
その聖女の1人に、わたくしが神殿から正式に任命され、民衆に奉仕するように命じられてから、ようやく10年の月日が流れました。
わたくしの名前はユリスシ─ア・セイ・アスバールと申します。
アスバール公爵家のアスバール姓を名乗ることを許されてはいますが、公爵家内では、何の権力も持たないただの養子でしかありません。
元々の両親は、領都から離れた大地で、農作や放牧をして暮らす普通の家族でした。
公爵家では、養父様は時折神殿にお顔を見せにこられますが、他のご家族様との面識はほんの一部の人達以外にしかなく、ほとんど面識がないのが実情に成ります。
年齢は今年で区切りのよい20歳になります。
『神殿の箱入り娘』と一部の神官達で揶揄されているようですが、それは正しく今のわたくしを言い表していると思います。
公爵様が何度も見合い話を持ちかけてきますが、聖女のお役目を理由にしてお断りしているのも事実ですから。
まあ、わたくしに関することは、今は其れ位でいいでしょう。
この騒々しい日に、のうのうとわたくしの自己紹介で時間を浪費することは出来ませんから。
わたくしが年がら年中引きこもる神殿では、此れまでに無い大変な事態が起きているのです。
その事態に対処するだけでわたくしは、もう、正直手一杯なのです。
叶うことでしたら、誰かに助けを求めてしまいたい。誰かに縋りつきたい。
ですが、わたくしはアスバール領区を守護する聖女ですから、そんな甘えは口が裂けても言えません。
神殿上層部から聖女に任命されたわたくしにも、此れから間も無く、この事態を収拾する為の大きなお役目を与えられることでしょう。
此れからは厳然たる態度で臨まねばなりません。
今からその心構えをする為にも、一部の隙も見せないように振舞うべきなのです。
心に仮面を被るのは、精神的な負担が掛かって大変なのですが──。
──これも聖女のお役目。
ここ今となっては、自分に与えられたお努めを粛々と果たしていきましょう。
そう、心の中を整理したわたくしは、多くの護衛の神殿騎士や聖巫女達を従えたまま、歩みを止めずに神殿の回廊を闊歩しています。
神殿内部では普段の日常とは違い神殿回廊に灯る燭台の数が異様に少なく、周囲が薄暗く見渡しづらい状況でした。
正面に先に進む神殿騎士達が、なにやら集まり報告を受けているようです。
「聖女様、今の神殿内は大分荒れているようです」
「我らが先に進み、安全を確保していきます」
「聖女様は、我らの後からお出でください」
「ええ、頼みます、ロダン」
聖女筆頭護衛隊長のロダン・ビスカルトは隊員達に素早く指示を出すと、その指示に従う神殿騎士達が駆けていきます。
「聖女様、足元に気をつけてお進み下さいませ」
背後からわたくしを気遣う聖巫女エティカの声がします。
「ありがとう、エティカ」
こんな時でも、わたくしの身を案じる者が側にいるだけで、心が少し落ち着きました。
朝から神殿内部では、混乱が収まらずに日が沈み燭台に火が灯る時間になっても、その様相は、一向に収まる気配がみえないようです。
今も取り乱した姿を人前に平気に晒す大勢の神殿関係者の姿を目にします。
泣き崩れた姿勢で神に祈りを捧げている姿が、神殿内部の其処彼処で見られるのです。
酷い光景です。
頭を垂れて跪き嘆き悲しむ巫女達。
神の与えた試練を理解しようとせずに膝を屈した哀れな神官達。
神殿の価値ある調度品を破壊する信徒達に、神のお姿を描かれた絵画を必死に守る神殿騎士達。
大勢詰めかけた信徒に必死に対処する司祭様。
厳かな神殿のイメージとはかけ離れています。
まあ、それも仕方の無いことかもしれませんが。
本来、神の神託が1度も無いままに『神のシステム』のアップデートがあった記憶など、神殿に古くから死蔵され禁書となった歴史書や、秘匿された『神のシステム』の関連著書を紐解いてみても、そのような過去など載っていないはずですから。
ここに集まる泣き崩れている者達は、皆、神に見捨てらたと嘆いているのでしょう。
神の存在をこの世に証明してきた神器──『神のシステム』が、神を信じる信徒達を蔑ろにしたのですから。
わたくしはその報告を今朝知りました。
信徒達に伝わる信徒専用パスワード入力後もシステムエラーに成ると。
そうなると、『神のシステム』の信徒共有ホーム上に、誰もアクセス出来ません。
信徒共有ホーム上で使える機能が、全て使えなくなったのです。
ですから、信徒達の嘆きや悲しみも、そして怒りも理解は出来るのですが、神殿に身を置く者達には、信徒達に気を配る余裕も無いのが実情と言えるかもしれません。
そして、聖女のわたくしも今の状況を手を拱いているだけで、何の解決策も見い出せない関係者の1人。
聖女の名がこれ程、重い呼び名だと感じたことは、これが初めてでしょう。
まあ、考え込んでいても何も解決しません。
今は行動すべき時でしょう。
背後に複数の神殿騎士達や聖巫女達を従えたまま進むわたくしの一団は、異様な場景にいちいち反応せずに、そのまま無言で通り過ぎていきます。
「聖女様、信徒達に見つかったようです」
「ここは我らが対処します。聖女様はお下がりください」
「くれぐれも信徒達には危害を加えないようにお願いしますね」
「お任せ下さい」
大勢の信徒達がわたくしの周りに詰め掛けようとしますが、護衛に付く神殿騎士達が彼らを一手に引き止めます。争い事はどうにも苦手ですので、わたくしは後ろに下がりました。
「ここは彼等に任せて、遠回りになりますが、左の回廊に進みましょう」
「ロダン、任せます」
その隙を付き急いでその場を離れます。
彼等、信徒達への説明をしていくのは後回しです。
此処にいる信徒達が納得するだけの状況説明を出来るとは思いませんから。
今は情報収集が先です。
なにより、今は何を差し置いても緊急会合に出席して、夢の世界で見ていた情景を有りの侭に報告する責任がわたくしにはあるのです。
ですから、歩みを止めずに進みます。
遠回りをしたから、少し時間が掛かりましたが、漸く緊急会合を開く建造物とその入口の扉が見えてきます。
わたくしに付き従う者達の安堵のため息がしました。
無事にたどり着けたので、緊張の糸が途切れたのでしょう。
同じくわたくしも「はふ──」とため息を付きます。
「クスッ」と声が後ろから声がしました。
うふん?何かわたくしの行動が可笑しかったのでしょうか?
そんな訳がないですよね。何といってもわたくしは聖女なのですから。
筆頭護衛隊長のロダンは、周りの護衛たちに今後の指示を出し終えるとわたくしにも声を掛けてきます。
「この者達に扉の前での警護を命じましたので、聖女様はそのまま中にお進み下さい」
「ここまでありがとう、ロダン」
回廊から見える扉からは室内の光が微かに漏れているようです。
緊急会合を開く目的地である談話室の手前のドアの前に辿り着くと、扉の左右で警護している神殿騎士が重々しく扉を開けて、中に入るように促されるままに任せ、室内に足を踏み入れます。
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