どん亀と呼ばれた僕は、理想の彼女を見つけるという不純な動機で片手間に冒険者家業を続けてるけど、そんな様子を神様はしっかり見ていたようで…

黒いきつね

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物語のはじまり

ここ最近を振り返る僕

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 地上時間で5日が経った。

 あれ以来ルーナとの関係は、徐々に改善していき、ここ最近は指導員兼秘書といった仕事をしてもらい、王国との直接のパイプ役もこなしてもらっていた。難しい案件は全てルーナ任せだから、前よりも更に頭が上がらなくなってきた。

 何かと忙しそうにしてるルーナからは、

「クロウには、いずれ役に立ってもらうから、今は私に甘えときなさい」

 と耳元でささやかれ、毎度毎度甘いキスを交わす彼女とは、幾度も濃密な授業を受けていた。
 ここ最近は毎日がそう。ルーナのことは好きだけど、それに付き合う僕の身も心もヘロヘロだ。

 身体がヘロヘロなのは、ダンスレッスンで疲れているからだからだよ。
 ご令嬢達全員と踊っていたら足腰が立たなくなるのは、当然だよね。
 別に毎日エロいことばかり、真剣に取り組んではいないはず。
 まあ、少しはエロい行為もしてるけど、それは、

「2人だけの特別授業だからエルシアには内緒にしといてね」

 と抱きしめられた状態で、念を押すように耳元で小さく囁かれ、そんなルーナにヘナヘナにされていく僕は順調に開発されているらしい。

 ルーナを抜かした総勢55名だったご令嬢達との関係も少しずつ改善され、これまた甘酸っぱい日常を送っている。

 朝のキスから始まり、朝風呂で玩具にされ、ダンスレッスンでは全員と踊って、夜風呂で揉みくちゃにされ、夜のキスでご令嬢達の官能的な絶叫と共に一日が終わる。

 最終的な一線を超えないようにするのは、全員を集めた話し合いの席で宣言済み。
 なので、おそらく大丈夫だと思う。

 実はここ数日、何度かご令嬢が夜這いに来て、おそるおそる情事をしようと迫られ……。

 その時は魔力を注いだキスと愛撫により、早々に幸福絶頂の世界に旅立ってもらったけど、その後もしつこく迫って来るから、困っていたんだ。

 全裸になった姿で、計画的に襲いかかろうとしてきた数人のご令嬢達もいて……。

 この子達には罰を受けてもらってる。

 この子達とは。

 ライオネル子爵家の養女、パリエラさん。
 
「避妊魔術かけてもらったら、大丈夫だって聞いたから、試してみたかったの」という彼女。

 実験台として申し出て、その後の経過観察対象になる気満々のいいぶりだったけど、これってもし、避妊魔術が効かなかったら、どうするつもりだったんだろう。

 ミルノルト子爵家の養女、ナルディアさん。彼女の言い分は、

「蛇の生殺しは耐えられないの。もう我慢できないんだもん」

 とバカ正直に答えてくれた。

 散々天国の世界にご招待してあげたから、そういう意味で限界だったらしい。

 他にも襲撃者はいて、多くは養女に成り立ての20名のご令嬢達が中心になって計画が組まれ、その中から、選ばれた子が懲りずに毎晩、夜這いに訪れた。

 この子達に与えた罰は、顔だけ動くようにした全裸姿の甲羅像のまま動けないようにして、食事1食抜きの罰にしたけど、あんまり効果はなかった。
 
 格式を重んじる貴族家にとって結婚や出産というのは、直接相続が関わってくる重要な儀式だから、ことさら慎重にならざるを得ないとクドクドと説得しても、わかってくれたようには見えなかったから、みんなを集めてそんな話し合いをしたんだ。

 この話は卑猥ひわいではあるけど「とても大事な話だから」といい、みんなの前で正々堂々と議論した。

 その甲斐もあって全てのご令嬢達から、何とか同意を得られた。

 やはり、結婚前に妊娠してしまうのは格式を重んじる貴族家にとっては恥ずべきことらしく、家の中で低い立場である彼女達にとり、更に立場が低い立場に追いやられるだけだから、絶対にそうならないようにしてほしいと殆ど全てのご令嬢から懇願されたのだ。

 ご令嬢達からは、例えば、

「家の家族を見返したいのに、そうなれば元も子もないわ」
「もし、そうなったら、人知れずお腹の子供を死に追いやるように言われますわ」
「そういう経験をすると、次の子供が授かりにくくなると聞きますし」
「おそらく愛想を尽かされて絶縁されますわね」
「初めて産む子を死に追いやるなんて嫌です。出来ません」
「ここにいれば、学生気分のままで皆と楽しくいられるから、私はそこまで急いでいないよ」
「私も興味はあるけど、もしもがあると思うと躊躇します」

 などと多くのご令嬢達から現実的な意見がでる一方。

 すでに社交界デビューしているご令嬢達からは、

「格式に背く行為が噂になって広まることが何よりも怖いです」
「そうなったら、社交の場にいくのも億劫になりますわ」

 というご令嬢の少数意見もちらほら。

 アスフィール神聖教の信徒であるマリフィアさんは、

「私はクロウル様との間で少しずつ愛を育んでもいけたら、それでいいの。愛の営みは結婚後に幾らでもできますから、今の瞬間を大切にしたい」

 顔を赤く染めて自分の意見をみんなの前で発言していた。
 他の信徒であるご令嬢からは、

「一般信者と貴族信者では神殿に及ぼす影響力が違います。教義を破るのも同様に、意味合いが違ってきますから、私達を気遣うクロウル様の考えに私は賛同しますわ」

 という神殿の圧力に怯える意見もあった。

 国教として絶大な信者をようするアスフィール神聖教では、処女性が尊い存在だとされている。
 なので、婚姻関係でもないのに処女喪失したと噂が立てば、それだけでその後の人生が大きく変わっていくことになり、その噂がもしも真実だった場合には、大抵は家から有無を言わさず勘当され、そのまま修道院送りになる場合が往々にしてあるらしい。

 修道院送りを阻止することも出来なくもないが、

「愛人の身分に落ちるのは絶対に嫌ですから、私はクロウル様の言う通りに致しますわ」

 というアズール伯爵家のクラフェルさんの意見もあったが、実は愛人になるのを覚悟の上であるならば、情事をするのは貴族の格式上でいえば、問題ないことではあるんだ。

 ただ、愛人というのは立場は非常に弱い。
 深い性愛関係がお互いを結びつけるけど、寵愛がなくなれば脆いものだ。
 今までの愛が嘘のように簡単に切り捨てられたりするから、覚悟する必要がある。

 実は、貴族家の当主や子息の多くは、多かれ少なかれ、愛人を囲っている。

 そして、国もそれを暗黙の内に長年容認していた。
 ただ貴族家のご令嬢が愛人になるのは許されない。
 貴族のご令嬢は、将来、必ず貴族の血筋を持った正統な跡継ぎを産むという重要な役目がある。
 愛人となるということは、その役目を自ら放棄するに等しい行為。
 なので愛人になれるのは、平民か貴族家から勘当されたご令嬢だけとなり、奴隷と貴族の身分をもつ女性は愛人にはなりえない。

 愛人本人には当然、相続権が認められないし、愛人が生んだ子供は庶子となり一切の相続権が認められない。

 貴族教育により、愛人の法政上の身分を正しく理解するご令嬢達は、愛人だけは御免被りたいはず。

 それでも、ある一部のご令嬢からは、

「女性の中で果てなければ大丈夫じゃないかしら」
「ご学友の子達もこっそりと体験してるみたいですから、わたくしもこっそり体験したい気持ちがありますわ」
「1回ぽっきりの火遊びぐらいだったら、いいんじゃないかなぁ」

 などと楽観的な声も数人のご令嬢から上がったが、僕も正直に自分の心を打ち明け、

「僕も男だからお互いが合意の上でなら、そういう行為は是非して経験してみたいけどね。ただ、一度そういう行為に及んでしまうと、避妊したとしても絶対に安心とは言い切れないらしいよ。それにこれだけ綺麗な子が大勢いるんだから、その行為が許されたら、何かの間違いで誰かに子供が出来る可能性はゼロではないだろうね」

 と若干脅し気味に自分の心を素直に打ち明けたことで、正式な結婚式を終えるまでは、興味本位で一線を越えるのはやめようという結論に至った。

 ここに集まったご令嬢達は、何より貴族の身分を失うリスクを恐れている。
 一夜の過ちにより、実家から絶縁され愛人になるか、はたまた修道院にいくか、限られた選択肢の中からしか選べなくなるのは、耐えられない事だろう。
 僕も折角仲良くなったご令嬢達をそんな目に合わす気はさらさらない。
 ご令嬢達が真剣に結婚を見据えて考えているとしたら、僕も真剣に応じていくつもりだ。
 エルシアと一緒になれるなら、これくらいの障害は何とかしたいと、前向きに考えれるようになったしね。
 
 本音を言わせてもらえれば、もう少し人数が少なくなったらいいなとは思ってはいるけど、それを言ったが最後、火に油を注ぐ行為に発展しかねないから、怖いから黙っておいた。

 まあ、この腹を割った話し合いにより、無事、実家に被害をもたらす状況を回避できたと思うよ。
 あくまで僕が欲望に負けてしまわないという条件付きではあるけどね。

 
 話し合いを終えた後は、一人一人とまず仲良くなることから始めることにした。
 具体的には、毎日ルーナが選んだ1人の子とのデート時間を確保され、甘いひと時を過ごした中で色々な話をしあい、お互いの関係性を少しづつでもいいから深めていこうとしているが、大勢のご令嬢がこの後に控えているから、まだまだ道半ばである。

 他にもダンスレッスンや様々な貴族の心構えや身の振る舞いといった講習を、貴族令嬢達から優しく指導を受けたり、貴族養女となって日が浅い子達と一緒の机を囲んで和気あいあいと学び交流を持ったり、魔力をゲートクリスタルに注ぎ込んでいたりと、穏やかだけど賑やかで忙しい日々を過ごしていたが──。

 ここ最近の甘い日常に、変化の兆しが訪れた。
 今朝早く冒険者ギルドから封書が届いたことで、少し周りが慌ただしくなる。
 封書の内容は、冒険者ギルドからの呼び出し要請だった。
 たかがC級冒険者に封書が届くなんてよっぽどのこと。
 
 封書には、相談したいことがあるとだけ書かれていたけど、厄介事が舞い込みそうな予感しかしてこない。

 まあ、大体予想はつくけどなぁ。
 おそらくだけど……。

 ここゲートタワー内にも、冒険者ギルドの支店を出すスペースを借り受けたいんじゃないかな。

 後は、もしかしたらだけど、冒険者ギルドからも要請され、道路整備に駆り出されるかもしれないとは思ってる。

 どうしてかというと……。

 今までは各階層に冒険者ギルドが設置した短距離転移陣が活躍していたけど、これからは神聖国製の長距離転移陣が主流に取って代わることになるからね。冒険者ギルドとしてはどうにも面白くないことだろう。そこで僕に働きかけて魔物を寄せ付けない道路を迷宮内に作るようにする特別クエストの話を持ちかけてくるんじゃないかと、邪推してみたんだけど、実際の所はどうだろうか。

 こちらとしても、一度クエスト内容について、しっかり問いただしたかったから、いい機会だとは思っている。

 出向く先は、この前僕が道路上に設置した建物の一つ。元々は『紅龍の牙』所有の魔導建屋だったようだけど『紅龍の牙』が貸し出そうとした物件に冒険者ギルドが手を挙げたらしい。
 その冒険者ギルドの迷宮49階層支店となった場所にくるようにと、朝の奉仕キス活動の最中、ルーナとする熱い抱擁の合間にそう報告を受けた。

 それに伴い、ルーナからようやく外出してもよいと許可がでた。
 何気に嬉しい。今までずっと、外に出させてもらえなかったから。
 宿営地にきてから早々にゲートタワーに軟禁されるって結構辛いことだった。
 なので、ずっと外の空気を思いっきり吸いたかった。
 冒険者ギルドからの厄介事は御免だが、封書を送ってくれたことは素直に感謝したい。
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