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どん亀のプロローグ ③
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「準備はできたかよ。兄弟、俺っちはもう何時でもいけるぜ」
ロウルの言う通りに僕の魔力を全身の隅々まで行き渡らせるように集中する。
身体の細かい魔力の波を感じとる。
全身に集中していると3つの荒ぶる力を感じた。
なんだ?.....この力は?
自分の力なのに、恐怖を持ってしまう。
荒ぶる力の正体に疑問をもつ。
それとほぼ同時に、頭の中にロウルからの思念波が届く。
思念波はロウルからの情報だった。
ロウルからの思念情報によれば。
それぞれが独立した心臓。
3つの力はそれぞれ真逆の力。
魔力を生み出す心臓である魔臓器。
聖力を生み出す心臓である聖臓器。
神力を生み出す心臓である神臓器。
3つの臓器には、ありえない程の力が満ちていた。
今回は魔臓器に力を込める。
すると、爆発的に膨らんだ魔力が、僕の身体の隅々まで行き渡るのを感じた。
「グッギャ、グギャギャキャグキャキャ」
「おっしゃ~、じゃあよ。俺っちがカウントするからそれに合わせてくれ」
「いくぜ、3、2、1」
「「玄武人化」」
その掛け声を叫び終えた瞬間に、僕は宙に浮く感覚を覚えた。
真下には超巨大な亀が見える。
不思議な感覚だ。
前の身体を見下ろしているのは。
今の身体を見るとまだ身体の形を成していない。
僕の姿は、光の球体の形をしていた。
僕の後ろにもう1個の光球が見える。
あの光球はロウルだ。
ロウルの光球は、地面に向かうように下降していく。
僕もその後についていき、地上スレスレまで降りていくとロウルの光球が僕にぶつかってきた。
ロウルの魂と合わさるような感覚を覚える。
眩い光が僕達を包む。
僕は人型になっていくのを見守った。
人型に成り終わると共に眩い光も弱くなって消えていく。
「よっしゃ~、成功したようだぜ。やっぱよ、身体が大きすぎると動きにくくて仕様がねえ。これくらいのサイズが動きやすくて丁度いいぜ。兄弟もそう思わねえか」
「ああ、そうだな。2本の足で立っているのが普通だったからな、あの体勢は違和感がハンパなかったよ」
「首が凄く伸びてしまったときは、どうなるかと思ったけど、何とかこの姿に戻れて良かった」
僕は自分の今の身体をしげしげと見てみた。
僕の身体は深緑色の鱗に覆われていた。
頭には髪も生えていた。
額を触ってみると額の中央に、何か石が埋め込まれているようだ。
服は着てない。だが寒くはないし熱くもない。
真っ裸だと言えるのかもしれないけど、そんなに恥ずかしくもない。
何故なら、服の代わりに亀の甲羅を背負ったというか、着込んでいるから。
甲羅の重さは感じなく、寧ろ、前の身体より運動性能が上がっている気がする。
手足は人間だった頃の長さと一緒だ。
ただ、全体的にもっさりとして、大分太った感じがする。
背後に首を傾げて見ると、普通の亀よりもかなり長くて立派な尻尾もあった。
尻尾の付け根は二股に別れていて、普通の尻尾とは少し違う。
お尻に力を入れてみると尻尾が自由に動かせた。
この尻尾はなかなか使い心地が良さそうだ。
ロウルもその尻尾を興味深げに見詰めている。
僕はそのロウルに視線を移すと.........。
股間の位置に居座った相棒がうねうねしていた。
自分の姿を俯瞰してみると、どう見ても変態魔物としか思えない。
この姿は、流石にどうかと思う。
早急にどうにかしなければいけないだろう。
僕はどうにかしたい思いを胸に秘めて相棒に話し掛けた。
「なあ、ロウル、そこの場所から移動することは出来ないかな?。そこに居座られると、ちょっと恥ずかしいというか.......何というか、もう少し目立たなく出来ないかな?」
「お──、その言葉を待ってたぜ」
ロウルの3つの目がキラリと光る。
ロウルは僕の目の前にまでうねるように進み出て来ると、顔を近づけてきて熱く語りだした。
「俺っちもずっと宙に浮かんでるのも、身体に力をかけ続ける感じがしてよう、結構負担だったんだ」
「なんだ、ロウルもそこの場所が嫌だったんだ。思い切って話してみて良かったよ」
ホッとした。
そこの場所がお気に入りだったのかと思ってたけど。
話して見たら、どうやら違ったみたいで安心した。
お互いに腹を割って話してみるって大事なんだな。
まさか、元の息子と話をする機会があるとは、思ってすらなかったけど。
「まあ、なんだ。元の場所から動くのも、昔の俺っちを否定するみたいで嫌な気分にもなるけどよ」
「新しく生まれ変わった俺っちは、もっと、自由に振舞ってもいいとも思ってたんだ」
僕の元息子は、自由奔放な性格のようだ。
あんまり自由奔放すぎるのは何だけど、これくらいなら許容範囲内だろう。
「それによ、このままぶらぶら揺られてるのは、正直に言えば、全身の筋肉をいつも酷使してる感じがしてよ、結構辛いんだ」
僕がロウルの立場だったらと創造する。
確かに体勢でい続けるのは、結構苦痛に思うかも。
「だからよ、兄弟さえよければ、俺っちは尻尾の付近に移動したいんだけどいいか?」
尻尾の側だったら、僕も賛成だ。
「そうすりゃよ~、兄弟のしっぽに絡まってるだけでいいから、すげー楽できるんだ」
「僕も、そのほうが見た目が大分改善できそうだから、その方法には賛成するよ」
ロウルが楽に出来る環境のほうがいいだろう。
「ありがとよ、兄弟。んじゃよ、さっさとやっちまうから見ててくれ。痛みがないようにするからよ、安心して待ってな」
話し終えたロウルは、魔力を全身に巡らせて光り輝くようになる。
そのまま付け根の部分が移動していき、尻尾の付近に付け根が移動していった。
ロウルが元居た場所を手で触ると、ツルツルした感触を感じた。
これで、変態の汚名を浴びる心配が無くなった。
一番の難題をクリア出来たから、肩の荷が下りた気がした。
「やっぱこっちのほうが尻尾に絡めれて楽できるぜ」
ロウルもご満悦のようである。
「なあなあ、兄弟、俺達はこれからどうすんだ」
ロウルの一言で一番大事なことを思い出した。
「どうしようか。そういや、まだ何にも決めて無かったか」
階層主を倒した。当初の目的は達成した。
周りには階層主の骸が散らかっている。
ロウルはその骸を大きな口を開けて丸呑みしながら、提案してきた。
「なんならよ、ここでしばらく暮らさねえか。向こうに丁度大きな家も出来たことだしな」
ロウルは喋りながら、視線は前の身体に頭を向ける。
同時に僕の脳裏には、聖女達が寝ている保護膜内の映像が映る。
今のはロウルから送られてきた思念映像だ。
脳裏に映った映像では、保護膜内は思っていたよりも、大きな空間で保護膜事体が淡い光を放っている。
大きな家とは、前の僕の身体のことを言っているようだ。
巨大空間の半分の面積をしめる巨体の中に、住み着きたいとロウルは考えているようだ。
「なあ、ロウル。あの前の身体ってどうなるんだ」
「ああ、あれは兄弟と俺っちの大元みたいな扱いになるな。どっちかっていうとあっちが本体で、今の人型が分体みたいなイメージになるぜ」
「今は分体の方に魂があるからよ、本体は休眠中って思ってくれりゃぁいいんじゃねえか」
「へー、だったら、あの本体は、ここから出られないんじゃないの」
前の巨体は一言で言えば山。丸みのある山だ。
2本の前足と2本の後ろ足であの巨体を今も支えている。
両目は閉じられたまま。微動だにしない。
あんな巨体じゃ、ここの開けた場所から他の場所に移動するのも無理だろう。
「其の辺も大丈夫そうだぜ。今の分体と本体には、切れないパスが繋がっているみたいでよ、兄弟か俺っちが願えば、近くに転移させられるみたいだぜ」
「そりゃあ、とんでもない能力だな。玄武人族に生まれ変わると、色々と凄い力を授かるんだな」
「上手く扱えるかな?.......そうだ!!」
「ロウルや僕にも何か凄い力があるなら、今の内に教えてくれないか?」
今のところロウルだけが確認できるステータスを確認すると、ロウルはその効果を僕に話してくれた。
「おお、いいぜ。ええっとな。兄弟は、今までのスキルがかなり強化されてるみたいだぜ」
「それはいいな。もっと真甲羅スキルを極めたいって思ってたんだ。他はどうなんだ」
「ちょっと待ってくれや。なになに.....兄弟には新しく亀爪ってスキルもあるな。兄弟が今まで使えなかった魔法も使えるみたいだぜ。おっとこれは面白そうじゃねえか。ほうほう、兄弟の手足と首がどうやら伸びチジミ出来るみたいだ」
「面白そうだな。ちょっと試してみるか」
まずは首を伸ばすようにしてみると。
本当だ。首が少し長く伸びた。
30センチほど背が高くなった視界になった。
腕も試しに伸びるようにしてみると。
腕も同じく30センチ程長く伸びた。
これは面白い。
もう少し遊んでみたいけど、ロウルのことも知りたいから、聞いてみた。
「この感じは面白いよ。ロウルのほうはどんな事ができるんだい。聞かせてくれよ」
「よ─し、待ってたぜ、その言葉。俺っちの勇姿を見せてやる。目ん玉を大きく開けてよ─く見てな」
「へっ......おい、おい、なんだそりゃ.....嘘だろ」
僕の目の前には、9匹のロウルがいた。
9匹のロウルは微妙に顔の形が違う。
それぞれがチロチロと長い舌を出している。
9匹のロウルは別々に話しだした。
「どんなもんだいってなもんよ」
「こんなふうによ」
「まだまだ分体をつくれるんだぜ」
「どうだ」
「すげーだろ」
「ちった──見直したかよ」
「俺っちのことを」
「こんな風に個別にしゃべれるんだぜ」
「独立した分体と本体がパスで繋がってる感じでよ」
「俺のスキルも面白れ~だろ、素直に褒めてくれてもいいんだぜ」
僕の伸びチジミする能力が霞んで見える。
やはりロウルが主人格になったような気がしてきた。
ここは、素直になろう。
「ああ、やっぱりロウルは凄いって。さすが俺の相棒だ。これからも頼りにしてるからな」
「やっぱ、褒められるって嬉しいな。ここはいっちょ見せてやるか、俺が思い描いた喜びの舞をよ」
僕に褒められたロウルは、全身で喜びを表現し始める。
うねうねしてて、ちょっと僕の好みではなかった。
まあ、さっきよりは被害が少なそうだから、そのまま踊れせておく。
さてと、ロウルはここに居続けたいみたいだけど、僕の考えはどうなんだろう。
わからない。どうしていいかが全然思い浮かばない。
このままロウルの言う通りにするのもいいけれど、他の案もないのかな。
ずっとこのままの姿ってのも、やっぱり嫌だ。
この姿をどうにかしたいって気持ちもある。
そうだ、どうするかわかんない時はこうすればいいって、養父に教えてもらった方法があった。
その方法を一度試してみよう。
「ロウル、ちょっと試してみたい遊びがあるんだ。手伝ってくれないか」
「ああ、いいぜ、何をするんだ」
「この部屋の床に1~10の番号を書いていって欲しいんだ」
「それで、こうゆう風な条件付けをするんだ」
僕は地面に番号を書き出して、その横に条件を書き出した。
こんな風に。
1、 復讐する。
2、 迷宮で修行する。
3、 探索続行(人化の方法を探す)。
4、 探索続行(宝物GETを目指す・迷宮コア破壊を目指す)。
5、 魔物として生きて、人類に仇をなす。
6、 仕様がないから、魔王でも目指してみる。
7、 自分の種族を繁栄させるように色々頑張る。
8、 聖女達と迷宮安全地帯内でひっそり暮らす。
9、 新たな快楽の扉を開けた僕は、迷宮の中で変質者として生きていく。
10、全部の案を一通り試してみる。
「書き記した条件の数字を、床一面に書いていってさ」
「それで目を瞑ってたどり着いた場所の数字で、今後の行動を占ってみたいんだけど、どう思う」
「面白そうじゃねえか。俺もやってみて~」
ロウルも乗り気のようで良かった。
僕とロウルは、迷宮ボス部屋の地面に、幾つかの番号を至る場所に書き記していく。
ロウルが大量増殖してくれたから、その作業は直ぐに終わった。
「じゃあ、最初は僕からやってみていいかなぁ?」
「兄弟が終わったら、次は俺っちもやってみたいからよ、初めに手本を見せてくれや」
僕は、目を瞑って階層主の住処を彷徨っていき──。
「さてと、どれにしようかな。神様の言う通り……」
こんな風に、どうでもいい占いをしていると……。
『よくぞ我を倒した。人の子よ。褒めてやろう』
頭の中に直接言葉が届く。これは念話だ。何処からだ。
「兄弟、すまねえ。どうやらまだ終わってなかったようだぜ」
というロウルからの声で、場に緊張が走った。
生きていたのか……黒龍王。
いち早く戦闘態勢を取った僕は、何処から攻撃がきても対処できるように身構えた。
『何処を探しておる。我はここじゃ』
念話が途切れると、遠方で転がっていた黒龍王の首から先の頭が、ゆっくりと宙に浮かび上がった。
ロウルの言う通りに僕の魔力を全身の隅々まで行き渡らせるように集中する。
身体の細かい魔力の波を感じとる。
全身に集中していると3つの荒ぶる力を感じた。
なんだ?.....この力は?
自分の力なのに、恐怖を持ってしまう。
荒ぶる力の正体に疑問をもつ。
それとほぼ同時に、頭の中にロウルからの思念波が届く。
思念波はロウルからの情報だった。
ロウルからの思念情報によれば。
それぞれが独立した心臓。
3つの力はそれぞれ真逆の力。
魔力を生み出す心臓である魔臓器。
聖力を生み出す心臓である聖臓器。
神力を生み出す心臓である神臓器。
3つの臓器には、ありえない程の力が満ちていた。
今回は魔臓器に力を込める。
すると、爆発的に膨らんだ魔力が、僕の身体の隅々まで行き渡るのを感じた。
「グッギャ、グギャギャキャグキャキャ」
「おっしゃ~、じゃあよ。俺っちがカウントするからそれに合わせてくれ」
「いくぜ、3、2、1」
「「玄武人化」」
その掛け声を叫び終えた瞬間に、僕は宙に浮く感覚を覚えた。
真下には超巨大な亀が見える。
不思議な感覚だ。
前の身体を見下ろしているのは。
今の身体を見るとまだ身体の形を成していない。
僕の姿は、光の球体の形をしていた。
僕の後ろにもう1個の光球が見える。
あの光球はロウルだ。
ロウルの光球は、地面に向かうように下降していく。
僕もその後についていき、地上スレスレまで降りていくとロウルの光球が僕にぶつかってきた。
ロウルの魂と合わさるような感覚を覚える。
眩い光が僕達を包む。
僕は人型になっていくのを見守った。
人型に成り終わると共に眩い光も弱くなって消えていく。
「よっしゃ~、成功したようだぜ。やっぱよ、身体が大きすぎると動きにくくて仕様がねえ。これくらいのサイズが動きやすくて丁度いいぜ。兄弟もそう思わねえか」
「ああ、そうだな。2本の足で立っているのが普通だったからな、あの体勢は違和感がハンパなかったよ」
「首が凄く伸びてしまったときは、どうなるかと思ったけど、何とかこの姿に戻れて良かった」
僕は自分の今の身体をしげしげと見てみた。
僕の身体は深緑色の鱗に覆われていた。
頭には髪も生えていた。
額を触ってみると額の中央に、何か石が埋め込まれているようだ。
服は着てない。だが寒くはないし熱くもない。
真っ裸だと言えるのかもしれないけど、そんなに恥ずかしくもない。
何故なら、服の代わりに亀の甲羅を背負ったというか、着込んでいるから。
甲羅の重さは感じなく、寧ろ、前の身体より運動性能が上がっている気がする。
手足は人間だった頃の長さと一緒だ。
ただ、全体的にもっさりとして、大分太った感じがする。
背後に首を傾げて見ると、普通の亀よりもかなり長くて立派な尻尾もあった。
尻尾の付け根は二股に別れていて、普通の尻尾とは少し違う。
お尻に力を入れてみると尻尾が自由に動かせた。
この尻尾はなかなか使い心地が良さそうだ。
ロウルもその尻尾を興味深げに見詰めている。
僕はそのロウルに視線を移すと.........。
股間の位置に居座った相棒がうねうねしていた。
自分の姿を俯瞰してみると、どう見ても変態魔物としか思えない。
この姿は、流石にどうかと思う。
早急にどうにかしなければいけないだろう。
僕はどうにかしたい思いを胸に秘めて相棒に話し掛けた。
「なあ、ロウル、そこの場所から移動することは出来ないかな?。そこに居座られると、ちょっと恥ずかしいというか.......何というか、もう少し目立たなく出来ないかな?」
「お──、その言葉を待ってたぜ」
ロウルの3つの目がキラリと光る。
ロウルは僕の目の前にまでうねるように進み出て来ると、顔を近づけてきて熱く語りだした。
「俺っちもずっと宙に浮かんでるのも、身体に力をかけ続ける感じがしてよう、結構負担だったんだ」
「なんだ、ロウルもそこの場所が嫌だったんだ。思い切って話してみて良かったよ」
ホッとした。
そこの場所がお気に入りだったのかと思ってたけど。
話して見たら、どうやら違ったみたいで安心した。
お互いに腹を割って話してみるって大事なんだな。
まさか、元の息子と話をする機会があるとは、思ってすらなかったけど。
「まあ、なんだ。元の場所から動くのも、昔の俺っちを否定するみたいで嫌な気分にもなるけどよ」
「新しく生まれ変わった俺っちは、もっと、自由に振舞ってもいいとも思ってたんだ」
僕の元息子は、自由奔放な性格のようだ。
あんまり自由奔放すぎるのは何だけど、これくらいなら許容範囲内だろう。
「それによ、このままぶらぶら揺られてるのは、正直に言えば、全身の筋肉をいつも酷使してる感じがしてよ、結構辛いんだ」
僕がロウルの立場だったらと創造する。
確かに体勢でい続けるのは、結構苦痛に思うかも。
「だからよ、兄弟さえよければ、俺っちは尻尾の付近に移動したいんだけどいいか?」
尻尾の側だったら、僕も賛成だ。
「そうすりゃよ~、兄弟のしっぽに絡まってるだけでいいから、すげー楽できるんだ」
「僕も、そのほうが見た目が大分改善できそうだから、その方法には賛成するよ」
ロウルが楽に出来る環境のほうがいいだろう。
「ありがとよ、兄弟。んじゃよ、さっさとやっちまうから見ててくれ。痛みがないようにするからよ、安心して待ってな」
話し終えたロウルは、魔力を全身に巡らせて光り輝くようになる。
そのまま付け根の部分が移動していき、尻尾の付近に付け根が移動していった。
ロウルが元居た場所を手で触ると、ツルツルした感触を感じた。
これで、変態の汚名を浴びる心配が無くなった。
一番の難題をクリア出来たから、肩の荷が下りた気がした。
「やっぱこっちのほうが尻尾に絡めれて楽できるぜ」
ロウルもご満悦のようである。
「なあなあ、兄弟、俺達はこれからどうすんだ」
ロウルの一言で一番大事なことを思い出した。
「どうしようか。そういや、まだ何にも決めて無かったか」
階層主を倒した。当初の目的は達成した。
周りには階層主の骸が散らかっている。
ロウルはその骸を大きな口を開けて丸呑みしながら、提案してきた。
「なんならよ、ここでしばらく暮らさねえか。向こうに丁度大きな家も出来たことだしな」
ロウルは喋りながら、視線は前の身体に頭を向ける。
同時に僕の脳裏には、聖女達が寝ている保護膜内の映像が映る。
今のはロウルから送られてきた思念映像だ。
脳裏に映った映像では、保護膜内は思っていたよりも、大きな空間で保護膜事体が淡い光を放っている。
大きな家とは、前の僕の身体のことを言っているようだ。
巨大空間の半分の面積をしめる巨体の中に、住み着きたいとロウルは考えているようだ。
「なあ、ロウル。あの前の身体ってどうなるんだ」
「ああ、あれは兄弟と俺っちの大元みたいな扱いになるな。どっちかっていうとあっちが本体で、今の人型が分体みたいなイメージになるぜ」
「今は分体の方に魂があるからよ、本体は休眠中って思ってくれりゃぁいいんじゃねえか」
「へー、だったら、あの本体は、ここから出られないんじゃないの」
前の巨体は一言で言えば山。丸みのある山だ。
2本の前足と2本の後ろ足であの巨体を今も支えている。
両目は閉じられたまま。微動だにしない。
あんな巨体じゃ、ここの開けた場所から他の場所に移動するのも無理だろう。
「其の辺も大丈夫そうだぜ。今の分体と本体には、切れないパスが繋がっているみたいでよ、兄弟か俺っちが願えば、近くに転移させられるみたいだぜ」
「そりゃあ、とんでもない能力だな。玄武人族に生まれ変わると、色々と凄い力を授かるんだな」
「上手く扱えるかな?.......そうだ!!」
「ロウルや僕にも何か凄い力があるなら、今の内に教えてくれないか?」
今のところロウルだけが確認できるステータスを確認すると、ロウルはその効果を僕に話してくれた。
「おお、いいぜ。ええっとな。兄弟は、今までのスキルがかなり強化されてるみたいだぜ」
「それはいいな。もっと真甲羅スキルを極めたいって思ってたんだ。他はどうなんだ」
「ちょっと待ってくれや。なになに.....兄弟には新しく亀爪ってスキルもあるな。兄弟が今まで使えなかった魔法も使えるみたいだぜ。おっとこれは面白そうじゃねえか。ほうほう、兄弟の手足と首がどうやら伸びチジミ出来るみたいだ」
「面白そうだな。ちょっと試してみるか」
まずは首を伸ばすようにしてみると。
本当だ。首が少し長く伸びた。
30センチほど背が高くなった視界になった。
腕も試しに伸びるようにしてみると。
腕も同じく30センチ程長く伸びた。
これは面白い。
もう少し遊んでみたいけど、ロウルのことも知りたいから、聞いてみた。
「この感じは面白いよ。ロウルのほうはどんな事ができるんだい。聞かせてくれよ」
「よ─し、待ってたぜ、その言葉。俺っちの勇姿を見せてやる。目ん玉を大きく開けてよ─く見てな」
「へっ......おい、おい、なんだそりゃ.....嘘だろ」
僕の目の前には、9匹のロウルがいた。
9匹のロウルは微妙に顔の形が違う。
それぞれがチロチロと長い舌を出している。
9匹のロウルは別々に話しだした。
「どんなもんだいってなもんよ」
「こんなふうによ」
「まだまだ分体をつくれるんだぜ」
「どうだ」
「すげーだろ」
「ちった──見直したかよ」
「俺っちのことを」
「こんな風に個別にしゃべれるんだぜ」
「独立した分体と本体がパスで繋がってる感じでよ」
「俺のスキルも面白れ~だろ、素直に褒めてくれてもいいんだぜ」
僕の伸びチジミする能力が霞んで見える。
やはりロウルが主人格になったような気がしてきた。
ここは、素直になろう。
「ああ、やっぱりロウルは凄いって。さすが俺の相棒だ。これからも頼りにしてるからな」
「やっぱ、褒められるって嬉しいな。ここはいっちょ見せてやるか、俺が思い描いた喜びの舞をよ」
僕に褒められたロウルは、全身で喜びを表現し始める。
うねうねしてて、ちょっと僕の好みではなかった。
まあ、さっきよりは被害が少なそうだから、そのまま踊れせておく。
さてと、ロウルはここに居続けたいみたいだけど、僕の考えはどうなんだろう。
わからない。どうしていいかが全然思い浮かばない。
このままロウルの言う通りにするのもいいけれど、他の案もないのかな。
ずっとこのままの姿ってのも、やっぱり嫌だ。
この姿をどうにかしたいって気持ちもある。
そうだ、どうするかわかんない時はこうすればいいって、養父に教えてもらった方法があった。
その方法を一度試してみよう。
「ロウル、ちょっと試してみたい遊びがあるんだ。手伝ってくれないか」
「ああ、いいぜ、何をするんだ」
「この部屋の床に1~10の番号を書いていって欲しいんだ」
「それで、こうゆう風な条件付けをするんだ」
僕は地面に番号を書き出して、その横に条件を書き出した。
こんな風に。
1、 復讐する。
2、 迷宮で修行する。
3、 探索続行(人化の方法を探す)。
4、 探索続行(宝物GETを目指す・迷宮コア破壊を目指す)。
5、 魔物として生きて、人類に仇をなす。
6、 仕様がないから、魔王でも目指してみる。
7、 自分の種族を繁栄させるように色々頑張る。
8、 聖女達と迷宮安全地帯内でひっそり暮らす。
9、 新たな快楽の扉を開けた僕は、迷宮の中で変質者として生きていく。
10、全部の案を一通り試してみる。
「書き記した条件の数字を、床一面に書いていってさ」
「それで目を瞑ってたどり着いた場所の数字で、今後の行動を占ってみたいんだけど、どう思う」
「面白そうじゃねえか。俺もやってみて~」
ロウルも乗り気のようで良かった。
僕とロウルは、迷宮ボス部屋の地面に、幾つかの番号を至る場所に書き記していく。
ロウルが大量増殖してくれたから、その作業は直ぐに終わった。
「じゃあ、最初は僕からやってみていいかなぁ?」
「兄弟が終わったら、次は俺っちもやってみたいからよ、初めに手本を見せてくれや」
僕は、目を瞑って階層主の住処を彷徨っていき──。
「さてと、どれにしようかな。神様の言う通り……」
こんな風に、どうでもいい占いをしていると……。
『よくぞ我を倒した。人の子よ。褒めてやろう』
頭の中に直接言葉が届く。これは念話だ。何処からだ。
「兄弟、すまねえ。どうやらまだ終わってなかったようだぜ」
というロウルからの声で、場に緊張が走った。
生きていたのか……黒龍王。
いち早く戦闘態勢を取った僕は、何処から攻撃がきても対処できるように身構えた。
『何処を探しておる。我はここじゃ』
念話が途切れると、遠方で転がっていた黒龍王の首から先の頭が、ゆっくりと宙に浮かび上がった。
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